◇『喪ったあとで~ある犯罪被害者遺族の18年~』についての審議
平成13年5月26日(土)午後4時30分~5時25分の枠で放送。この作品は凶悪殺人事件で弟を失った愛知県内に住む男性が、犯人である死刑囚の死刑執行停止を法務大臣に訴えたことを背景にして、人の感情と死刑制度のありかたを考えたドキュメンタリーです。主な意見はつぎのとおりです。
|
|
|
(1) |
興味あるテーマ
興味の持てるテーマで、犯罪被害者と死刑囚の18年にわたる両者の関係の変化を、被害者の言葉を通して語らせる手法は成功している。激しいテーマであるが、ナレーション、効果音も抑制が効いており、テーマにふさわしい、雰囲気を壊さない適切なものであった。
|
(2) |
ドキュメンタリーに文学的アプローチ
死刑という社会的テーマというよりも、相対するシチュエーションに置かれた人間同士の感情の変遷を、ドキュメンタリーではあるが文学的なアプローチで描いたことで成功につながったと思う。
|
(3) |
第三者と被害者本人の違いを描く
第三者から見ると加害者が死刑になって、被害者遺族はほっと一段落する気持ちになると考えるが、時がたつにつれて、裁判で死刑という極刑を望んだ主人公が「自由を拘束され、生きて一生罪の償いをしてもらいたい。死刑執行をしても何も残らない」という心境に変わっていき、そういうこともあるのかと思った。
|
(4) |
主人公の人物描写が薄い
犯罪被害者という主人公はこれだけの取材に耐えて、コメントもしっかりしており大変立派の人物に見えるが、18年の年月が彼の生活や精神的な変化など、人となりをもう少し深く描いて、普通の人間だということが分かれば、もっと作品に深みがでたのではないか。
|
(5) |
ジャーナリストの基本を守った作品
大きな課題をつきつけた作品で、労をいとわぬ取材で、むつかしいテーマに肉つけをしていった。その過程でジャーナリストとして気をつけなければならない点を、制作者がしっかり押さえていたように見えた。それはテーマに対して常に冷静であり、取材対象者への思いやりがあったからだ。
|
(6) |
番組の意図が不鮮明
死刑執行停止の上申書を犯罪被害者の遺族が法務大臣に上申書を提出するというショッキングなイントロで始まったが、この番組は犯罪被害者の救済がテーマなのか、死刑制度廃止を訴えるものか、はっきり見えない。
その一方で整理されないまま、乱れたまま伝えていることが、この問題の整理のつかない複雑な状況をよく伝えているとも言える。 |
(7) |
いいタイミングの放送
アメリカでオクラホマ州連邦政府ビル爆破事件の死刑囚が公開処刑された。死刑制度を残しているのは先進国ではアメリカと日本ぐらいだ。ブッシュ大統領はこの処刑について「復讐ではなく、正義が執行された」と発言したが、国民性の違いはあるものの、議論は高まると思う。
|
(8) |
犯罪そのものの説明が不足
事件である殺人の動機や殺人犯の人物像の紹介が少なく、死刑囚として改心し、償いの心を持っているだけでは、犯人の性格や人格が読み取れない。事件の背景などをもっと詳しく説明しなと加害者と被害者の関係が、当初はどのようであり、時間の経過で心境がどのように変わっていったかが理解しづらい。
|
|
|
|