メ~テレ ドキュメンタリー

メ~テレ制作の本格派ドキュメンタリー

TOPIC
放送内容

メ~テレドキュメント
2010年11月29日(月) 深夜1時59分~3時9分

ヒバクコク~切り捨てられた残留放射線~

  • ABU賞 ドキュメンタリー部門 ABU賞(=最優秀賞)
メインビジュアル
被爆者 甲斐昭さん

メ~テレでは、2004年から原子爆弾の残留放射線の問題に取り組んでいる。今回の番組は、ドキュメンタリーとして6作品目になる。
追い続けているのは、愛知県知多市に住む被爆者の甲斐昭さん(83歳)だ。

甲斐さんは、1945年8月6日、原爆投下直後の広島市に救援活動などのために駆けつけ被爆した。
原爆の放射線は、爆発から1分以内の初期放射線とそのあとの残留放射線に分けられている。
甲斐さんは残留放射線の被爆者だ。
国は、一昨年まで、残留放射線による原爆症を認めてこなかった。
甲斐さんは集団訴訟の原告1号として、基準の改正を求めてきた。
被爆者側の勝訴が続き、審査方針を改め、国は甲斐さんの原爆症を認定したが、法廷では「甲斐昭はほとんど被曝していない」と放射線の影響を否定し続けた。

訴訟は、60年の時を経て、残留放射線の影響にスポットライトを当てた。
アメリカの科学者とともに、広島の放射線を調査研究してきた広島大学の名誉教授・葉佐井博巳さんは、放射性降下物による影響、内部被曝の問題が未解明だと証言する。

実は、原爆を投下したアメリカにも核実験による残留放射線の被爆者がいる。
アメリカ政府は、特定のがんに限り補償をしているが、病気と放射線の因果関係を認めたわけではない。
しかし実際には、世界初の核実験で、すでに放射性降下物の影響を知っていたのだ。

番組は、日米の科学者の証言や、公文書などから、残留放射線の影響を否定のからくりを追う。
日米関係に詳しい名古屋大学の名誉教授・春名幹男さんは、アメリカがその人道的なイメージを維持するため、残留放射線の問題が隠されたと話す。

  • 広島大名誉教授 葉佐井博巳さん

    広島大名誉教授 葉佐井博巳さん

  • 名大名誉教授 春名幹男さん

    名大名誉教授 春名幹男さん

スタッフのつぶやき
ディレクター:安藤則子

私たちが始めてお会いした時、被爆者の甲斐昭さんは77歳でした。その甲斐さんは、今年の12月に84歳になります。国を相手に闘い、原爆症の認定審査のあり方を大きく変えさせたつわものでしたが、だんだんと体が弱ってきました。猛暑だったこの夏を避けて、秋になったら広島に行きたいと仰っていたのですが、残念ながら、体調が良くなく希望はかないませんでした。

甲斐さんは残留放射線の被爆者です。アメリカが原爆を投下してから65年がたちますが、その被害の実態は今なお未解明です。私たちが、残留放射線と原爆症の問題を追いかけ続けてこられたのは、甲斐さんを始め、被爆者の皆さんの証言、事実が取材の柱になっていたからだと思います。今回の放送は、なぜ残留放射線の影響が無視されてきたのか、その背景を中心に構成しましたが、核の傘の下で、残留放射線を切り捨ててきた被爆国・日本は、被爆者の方々だけでなく、世界中の次世代に対しても、大きな過ちを犯したのではないかと思っています。

残留放射線は核兵器だけでなく、原子炉の問題にも関わっています。その安全基準は、 被爆者のデータが基礎になっているからです。