TOPIC
放送内容

2月24日、耐震強度偽装を見逃した愛知県に対する責任を認めた判決が出た。耐震強度偽装事件では、民間の検査機関は国土交通省の処分を受けたが、自治体で担当者の処分を行ったところは無い。行政に対する判決は初めてだ。しかし、愛知県は「責任は無い」と控訴することを決めた。
「事件の責任の所在はどこにあるのか。」それが社長の口癖だ。なぜ、偽装は見逃されたのか。姉歯元建築士による構造計算書を審査したのは愛知県だ。県は、「姉歯元建築士の偽造が巧妙で見抜くことは不可能だった」として、責任を回避してきた。しかし中川社長が調べたところ、一目瞭然でわかるほど簡単な偽造が含まれていた。
裁判で県の過失を訴えてきた愛知県半田市のセンターワンホテルの中川社長は、勝訴の判決に喜びを隠せない。ホテルは3年前の事件後、建て直して2007年4月営業再開、順調に滑り出したかに見えた。しかし、このところの世界不況のあおりをうけ、宿泊客が20%減の状態に。建て直し費用7億円の返却がここにきて重くのしかかる。裁判を通して浮かび上がった愛知県の過失の実態を描くとともに、裁判とホテル経営を両肩にのせ奮闘する社長の姿を追う。
2006年4月、耐震偽装が見つかったホテルの解体作業が進む中、インタビューに答える中川社長。
2007年4月、建て直したホテルのお披露目で、インタビュー中、思わず喜びの涙を流す中川社長。
スタッフのつぶやき
ディレクター:安藤則子
愛知県半田市のセンターワンホテル半田の耐震強度に偽装があったと愛知県が発表したのは2005年12月4日。その夜、ニュースデスクの勤務だった私は、初めて、中川三郎社長と電話で話した。ホテルは、独自の調査で県よりも早く、偽装をつきとめ、自主休業をしていた。受話器の向こうの声は、緊迫していた。事件の全容をつかみたい、真相を知りたいという社長の思いが伝わってきた。
あれから、この番組の放送日まで1200日を越える時間が流れた。偽装の実行者、姉歯秀次元1級建築士をはじめとして、事件に絡んで登場する人物たちはみな個性的。事件発覚当時はさまざまなメディアが沸き立った。その中で、中川さんは、はじめから建築行政の不作為を睨んでいた。姉歯元建築士による偽装は、「ブラックボックス」と言われたコンピューターによる電算部分だけではない。図面を注意深く見たり、照合すれば、容易に見つかるであろう問題点や間違いも含んでいた。中川さんは「建築確認の審査をきちんとしていたら、偽装は見抜けたはずだ」と考え、ホテルの構造計算書を確認審査した愛知県を提訴した。タイトルの「責任の所在」とは中川さんの口癖だ。一方、県は、旧建築基準法のもとでは、偽装を見抜くほどの審査をする義務はなかったと主張。争点のかみあわない裁判は3年を越した。
裁判のため、事件の真相をつかむため、中川さんが集めた証拠、資料は莫大だ。 一連の事件で、私たちが取材したテープは450本を越えた。判決が出るまでは放送しない、行政の不作為に審判が下されるまで放送しないと決め、私たちも、ただただ判決日を待ち続けた。結果は、ご存知のように、中川さんの勝訴だ。今回の判決は、漫然とある「お役所仕事」を断罪したものだと思っている。
ところで、不思議に思うことがある。ホテルに何か大きなことがある日、たとえば社員の方々の解雇の日、解体工事初日、再オープンの日、判決日などなど、全て雨なのだ。中川さんの「雨男ぶり」には、ほとほとあきれてしまう。そんな「雨男」の中川さんは、実は「お祭り男」でもあるのだ。いつもは、その思いをぐっと呑み込んで渋い顔をしている中川さんだが、いったん祭りのハッピをはおると、あっと驚く大変身をとげるのだ。山車を先導し、走り、目が輝く。
番組は、権力を持たない市井に生きる1人の男性が、県を相手に戦った記録だ。わが身に置き換えてご覧いただけたら嬉しいと思いながら制作している。