メ~テレ ドキュメンタリー

メ~テレ制作の本格派ドキュメンタリー

TOPIC
放送内容

メ~テレドキュメント
2005年7月6日(水) 25時47分~26時42分

ただ、物語のためでなく~鈴鹿発 映画監督・小栗康平の挑戦~

メインビジュアル
小栗康平監督

 映画監督小栗康平が9年ぶりに映画を撮った。ロケ地は三重県鈴鹿市のNTT研修センター跡地、昨年、ひと夏住みついて5本目の長編「埋もれ木」に挑んだ。小栗監督自身、自分の映画は従来の撮影所や興行のシステムの中では成立しないと考えている。既存のシステムに乗せるとさまざまな制約に妨げられ、真に世に問う作品が出来てこないというわけだ。今回、小栗監督は撮影現場以上にその外での闘いに力を注いだ。資金集めや、劇場の確保、宣伝やパブリシティなどに奔走、すべて自分と少数のスタッフで行った。
 映画「埋もれ木」は、山に近い小さな町が舞台で、女子高校生を主人公にしたファンタジックなストーリー。カンヌ国際映画祭の監督週間部門に招待・公式上映され高い評価を受けた。小栗監督にとって1990年「死の棘」で審査員特別大賞を受賞して以来15年ぶりのカンヌとなった。
 「埋もれ木」に密着。映画監督が、創作面だけでなく創作面での可能性を確保するためどう苦闘しているか、とりまく日本映画産業の現状、さらに小栗監督が目論見のひとつに入れている「地元=鈴鹿との連携」がどう実ってゆくかを描く。
※名古屋での公開は 7月16日(土)から 名演小劇場
※鈴鹿での公開は 7月16日(土)から イオンワンダーシネマ鈴鹿

  • 倉庫に作られたセット

    倉庫に作られたセット

  • 映画「埋もれ木」のワンシーン

    映画「埋もれ木」のワンシーン

スタッフのつぶやき
ディレクター:平岩潤

 初めて監督に会ったのは1年以上前の事だ。9年ぶりの新作を、鈴鹿を拠点に撮影すると聞き取材を始めた。「泥の河」以来、25年間で撮った作品は4本だけ。内外の高い評価の一方で、難解、退屈との声もついて回る。ヒロイン選びのオーディションで来名するチャンスを狙って会った。「映画が出来るまでの一夏を追いたい」と短く意図を話すが、「普通のメイキングなのかなあ」とあまり乗り気ではないようだった。逆に「撮影よりも、その前とその後が、しんどいんだよね」と、聞かされる。撮れなかった9年間は、どう過ごしていたんだろう。そこで、「その前」と「その後」も撮ることにした。
 昨年夏、三重県鈴鹿市の旧NTT研修センターに、監督以下、合宿しての撮影。朝9時から始まったセット撮影は、夜9時、2カット目が、ようやく本番を迎えている。セットは、巨大な倉庫を遮光しただけ。防音も空調もない。監督は汗まみれで鬼の形相。照明の陽炎の向こうには、主演の14歳の少女、夏蓮(かれん)がいる。小栗作品は、ワンカットが長くアップを撮らない。凡庸なテレビ屋には、真似ができない。「セリフを撮るのではない。物語だけが映画の楽しみなのか。風景を含め、写っているものすべて、映画なのだ。」その分ワンカットへの集中力はすさまじい。長い長いテスト、そして本番。テイク10、ようやくOKが出た。
 カンヌで「埋もれ木」の上映が終わった。ものすごい拍手と「ブラボ-」の声。監督が、立ち上がって応えている。目の奥が光っているように見える。「あのクールな監督が」見ているこちらも、高ぶりを押さえられない。その光景を見ながら考える。「この1年をどうまとめるのか」今度は、私の仕事である。