ディレクター村井 航
♪暫しも休まず槌打つ響き…。
長く歌われてきた唱歌『村の鍛冶屋』の主人公のような職人に出会った。愛知県設楽町在住の鍛冶屋・安藤義久さん、83歳。およそ60年、土日も休むことなく鉄を打ち続けてきた刃物作りの匠だ。
無口で物腰柔らか。笑顔が可愛らしい安藤さんだが、炉に火が入り刃物を打ち始めた途端、険しい表情に変わる。槌音が響く仕事場は独特の緊張感に包まれ、とても話しかけられる雰囲気ではなくなる。真っ赤に焼けた鉄を叩き、曲げたり延ばしたり…無駄のない身のこなしに魅了され、しばし時間を忘れた。
「まあまあだな」。
何時間もかけて一丁の包丁を作り終えた安藤さんは決まってそう答える。決して奢らず、ものづくりに情熱を傾ける姿に職人の誇りを感じた。
安藤さんはこの春、惜しまれながら鍛冶屋の看板を下ろした。過疎、高齢化、そしてダム建設…。生きがいだった仕事が続けられなくなったさまざまな理由がある。83歳の職人が直面した現実を多くの人に知ってもらいたい。そんな思いで設楽町・八橋に通った。
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