イジュー!したい人を後押しする情報をお届けする「イジューのススメ」。今回は白川町で有機農業をしている伊藤和徳さんのお話です。
もともとは名古屋で会社勤めをされていた伊藤さん。どのような経緯で白川町に移住することになったのでしょうか?
-移住して農業を始めようと思ったきっかけは?
サラリーマン時代、資格系の雑誌に「命を大切にする仕事や環境に優しい仕事をやっていこう」という特集記事が出ていたのを目にしたんです。それにビビっと反応して、そういう方向に進んでみたいと思ったのがきっかけのひとつです。以前から「健康的に暮らすこと」が自分の中でテーマのひとつになっていて、「健康的に暮らしつつ命を大切にする仕事」を突き詰めていった答えが有機農業でした。サラリーマンでいれば会社の名前で食べていけますが、そうではなく、何かあったときに自分で生きていける力をつけたい、地に足をつけた暮らしをしたいと思い、自然が広がって土がたくさんある白川町のような山間地の田舎に移住しようと決めました。
-移住先を白川町に決めるまでにどのような準備をしましたか?
サラリーマンをしながら週末を使って農業体験に行ったり、実際に脱サラして農業を始めた人の話を聴きに行ったりしながら、実際に自分が農業をやれるかどうかを試しつつ情報収集をしていました。自分がやりたかった有機農業は、当時はどちらかというと虐げられる方の農業でした。役場に相談に行っても「有機農業はもう無理だからやめておきなよ」と大抵は取り合ってもらえなくて。
そのころはインターネットがだいぶ普及してきていたものの、FacebookやTwitterなどのSNSはなく、農家さんのブログもあまり多くなかったので、情報は主に書籍から取っていましたね。そういった書籍の特集で取り上げられている農家さんにコンタクトをとっていきました。
ほかにも、WWOOF(ウーフ)という有機農家が登録できるシステムを活用していました。登録されている有機農家のもとで手伝いをする代わりに、その期間の滞在費と宿泊場所と毎日の食事を提供してもらうというプログラムを運営しているポータルです。日本国内だけでなく海外のWWOOFホストに受け入れてもらうこともでき、逆に海外から来た人を一週間の農業体験として受け入れることも可能です。自分はそれに一年間だけ登録し、山梨県に3軒あった有機農家さんのうちおひとりの情報を得て、研修を受けました。
-移住の情報を集めたというよりは有機農業の情報を集めたら移住に行き着いた、という感じ?
自分の場合はそうですね。そういう風に準備を進めて、実際に農業をやろう!と決心しました。いろいろなワークショップや農業講演会に行ったり、農業体験をしたりしていたので、そこでご縁が広がっていました。その中で出会った白川町の方に「農業やりながら暮らしてみませんか?」と誘ってもらい、その流れで一度見学に行ってみました。そうしたらとんとん拍子で空き家と田んぼを貸してくれるという人が見つかったんです。「これもご縁だ」と思い、他のところは見ずに白川町へ移住を決めました。
なので、特に白川町に行きたくて準備を進めたというわけではありません。農業をやりたくてちょっとずつステップを踏んでいったところでいろんなご縁がつながっていき、ここに行き着いたという感じです。
-農業をするために会社員を辞めて移住すると決めたとき、不安に思ったことはありませんでしたか?
実は「会社の肩書きがなくてもいい」という思いもあったので、会社員でなくなることは不安に感じませんでした。本当に農業をやっていけてお金の収入があるかどうかということは確かにありましたが、新しいことを始めるときの不安はどんなことでもありますよね?それよりも新しいことを始めることの楽しさや「夢を実現するぞ!」「やってやるぞ!」という気持ちの方が大きかったです。
それから、空き家の大家さんとつないで下さった地元の方が近所に住んでいたことも不安解消につながりました。この方も有機農家さんで、さらに地元の自治会長のような役もされていて地元からも信頼されている方だったので、何かあったとき、ひとまずそこに行けば何らかのアドバイスがいただけるという状況でした。ちょっと相談したいことがあるとすぐに地元の方に相談できたというのが、大きな不安を感じずに移住でうまくなじんでいけた理由のひとつだと思います。
-移住先での苦労話はありますか?
想定外の苦労というのは全くなく、むしろ日々充実して楽しいです。
想定内の苦労というと、都会に比べて田舎だとご近所の付き合いがあるなど、近所の目が厳しいことですね。いい意味でも悪い意味でも。例えば、同じ班の人が亡くなったらみんなで送り出しますし、草刈りなどの美観運動のときはみんなで出るなど、班の行事に参加しないといけない。都会にいてマンションで隣に住んでいる人が誰かわからないとか、そういう状況ではないのを煩わしく思うと苦労かもしれません。ですが自分の場合は、「田舎に溶け込むにはそういうところに顔を出さなければ絶対にうまくいかない」ということを前もって情報として得ていたので、そこは苦労というよりは、生活の一部として捉えています。何か困ったことがあればすぐ助けてくれるので、それが苦労かと言われるとそうではありません。そういうことは田舎暮らしでは普通のことと言えば普通のことなので、そこを苦労と思ってしまうと逆に移住は長続きというか、うまくいかないかもしれません。
-農業の大変なこと・楽しいことは?
そもそもの前提として、どんな仕事も大変だし、大変ではない仕事はないと思っています。
それでも農業特有の大変さは、工業製品などとは違い、やったからといって確実にそれが育ってお金になる保障がないことですね。種蒔きしてから野菜が育って、お客さんに売れてお金になるのに早くても2ヶ月、作物によっては1年かかるものもあります。仕事をしたからといってその分全部の見返りがあるわけではないことと、見返りがあったとしてもタイムラグがあるというのも大変ではあります。
でも、想像以上に良く育ってすごい実りがいただけるときもあるし、日々野菜が生長していくのを見るのも楽しい。なので、そこは表裏一体というか、ある程度大変だけれども、大変さがあるから収穫できる喜びがあるというところがあります。
今年で移住してから8年目になりますが、病気で全部枯れてしまって収穫できなかったということも、ものによってはあります。ですが、それ以上に収穫できたらそれが嬉しいですし、家族で感謝の気持ちで野菜を食べられるとか、そういう農業の醍醐味と言うか、充実感のほうが強いです。そういうことが大きいから逆に大変なこともそこまで大変に感じてないのかもしれません。
-イジュー!を考えている人へ一言お願いします。
自分も実際に受けたことのあるアドバイスですが、田舎に移住するということになると「村に入る」、つまり自治会の班に入ることになるので、そのような共同体に入るという覚悟を持っておくことが大切です。「田舎の悠々自適な暮らし」ばかりを夢見ていったら、「あれ?意外と班の行事やお付き合い、消防団活動で忙しいし、都会暮らしではなかった人間関係の濃さがあるぞ?」とギャップにぶつかって、移住はうまくいかないと思います。社交性や協調性を持って村に入る覚悟をしないといけないし、そこで社交的に入り込んでやっていけば、大抵は受け入れてもらえると思います。それが、ひとつ重要だと思うことですね。
とにかく飛び込んでみると、今まで頭の中で思い描いていた不安が不安ではなかったりしますし、目の前にあることをどんどんやっていかなければいけないので、そんなことを考えている暇もなくなってしまいます。
「動き出せば変わりますよ!」ということはアドバイスとしてお伝えしたいと思います。
お話を伺った方
伊藤和徳さん
岐阜県白川町在住。有機農場・和ごころ農園を経営し、農業体験、食育体験の受け入れも行っている。
和ごころ農園HP http://wagokoro.xyz/
ブログ http://wagokoro.xyz/blog/