2011年に飯舘村で産まれた災害救助犬「じゃがいも」 11回目の試験でやっと合格、子どもたちの励みに

2023年10月26日 17:31

岐阜を拠点に活動している東日本大震災の被災地生まれの災害救助犬が9月、大阪の小学校で授業に参加しました。子どもたちに伝えることは、防災だけではありませんでした。

災害救助犬のじゃがいも

 大阪市立香簑小学校。9月、岐阜県から災害救助犬を招きました。

 名前は「じゃがいも」。

 「名前の由来はじゃがいもが生まれた実家から、じゃがいもを引き取った時に、とってもおいしいジャガイモが送られてきた」(日本動物介護センター 理事長 山口常夫さん)

 東日本大震災が起きた2011年。

 じゃがいもは、避難生活が続く福島県飯舘村で生まれました。

 「災害で避難所生活だから、ワンちゃんを飼うことができません。『誰かに子犬をもらってください』と、東日本で生まれたワンちゃんを立派に育てたい私の気持ちで、じゃあ災害救助犬にしてみようと」(山口さん)

 山口さんは、訓練士の上村智恵子さんとともにじゃがいもを災害救助犬に育て、被災地復興の希望にしようと考えました。

 

大阪市立香簑小学校

大阪の小学校に“じゃがいも”が呼ばれた理由

 災害現場で匂いを嗅ぎ分けて、助けを待つ人を見つけます。

 警察犬のように1人のにおいをかぎ取るのとは違い、災害救助犬は多くの人のにおいを嗅ぎ取ります。

 見つけると、より広い範囲に聞こえるように知らせます。
 
 でも、どうして大阪の小学校がわざわざ“じゃがいも”を呼んだのでしょうか。

 今回の仕掛人、6年生の担任、森佑介先生です。

 「大阪市で教員をしているが、岐阜県の出身で、岐阜県で災害復興に尽力している方がいることが誇らしくて」(6年生担任 森佑介先生)

 岐阜県の出身の森先生にとって、“じゃがいも”は子どもたちに是非とも会わせたかった存在です。

 

小学校のある西淀川区も地盤沈下や建物の倒壊などの被害を受けた(提供:あおぞら財団付属「西淀川・公害と環境資料館」)

きっかけは阪神淡路大震災

 災害救助犬が本格的に日本で育成されるようになったきっかけは、阪神淡路大震災でした。

 当時は、国内に災害救助犬の組織がなく、被災者の捜索に海外の救助犬が導入されました。

 「私、震災の時にいたのは神戸です。高校1年でした。あの時も災害救助犬がいたらがれきで埋もれていたり、閉じ込められていた人が結構いたので、災害救助犬がいたらよかったにとは思います」(保護者)

 この小学校のある西淀川区も、地盤沈下や建物の倒壊などの被害を受けていました。

 「当時の子どもたちは『基本は学校に行かなければならない』と思っていて、どんどん学校に来ていた。昼から帰らせた。まだ避難のマニュアルなどが、なかったので各学校で判断したと聞いています」(香簑小学校 田中秀樹校長)

 

道徳の授業を受ける6年生

“じゃがいも”が道徳の教科書に

 給食を挟んで、5時間目。森先生のクラスは「道徳」です。

 教科書を開くとそこには“じゃがいも”のお話が。

 2020年度から道徳の教科書にじゃがいもの物語が採用されました。

 雑種犬の“じゃがいも”は災害救助犬に向かない、と言われながらも合格を目指してがんばる姿に多くの被災者が勇気づけられたことなどが書かれています。

 試験は不合格が続き、やっと11回目で合格。

 “じゃがいも”の災害救助犬への道のりは、「ヒーロー」と呼ぶにはほど遠いものでした。

 でも、あきらめなかったからこそ合格できた災害救助犬。

 合格して6年の間、災害現場へ出動の機会は1度もありませんが、“じゃがいも”はいまも東北・福島の人たちを励ます存在になっています。

 

日本動物介護センター 理事長 山口常夫さん

「じゃがいもが一生懸命やっているのを見て、あきらめられないところもあった」

 そして、山口さんから子どもたちに質問が――
 Q.どういうことをきょうは、じゃがいもから教わったのかな?(山口さん)
 「他の人の声を気にしない」(6年生)
 「決めたことを最後までやりぬく」(6年生)
 「強い信念を持つ」(6年生)

 「子どもたちも少しずつ卒業式を意識する。運動会の演目などで『これはおぼえられん』『ムズいわぁ』と言うが、今回の授業をきっかけに子どもたちのノートを見ると、難しいと思ってたけど頑張ってみたい、挑戦していきたいと自分の中で変容をもっているので、すごく意味があった」(森先生)

 これまで、多くの災害救助犬を育てた山口さんと上村さん。

 じゃがいもが一番苦労した、といいます。

 「じゃがいもは一歩ずつ、ちょっとずつ進歩していったので、後退することはなかったので、続けることができたと思っています」(訓練士 上村智恵子さん)

 「じゃがいもが一生懸命やっているのを見て、あきらめられないところもあった。我々が引っ張ってきたんじゃなくて、じゃがいもに引っ張られたんじゃないかな」(山口さん)

 

災害救助犬のじゃがいも

6年生と“じゃがいも”の共通点

 実は、今回の6年生たちと“じゃがいも”とは、ある共通しているものがあったのです。

 それは――

 「みんなと同い年ちゃうんか? じゃがいもは」(森先生)

 6年生の多くが、2011年生まれ。東日本大震災が起こり“じゃがいも”が生まれた年なんです。

 「じゃがいもと同い年だから、何ごとにも挑戦しようかなと思いました」(6年生)
 「なんかすごくうれしかった」(6年生)
 「がんばって災害救助犬になるまでの道のりを知って、自分もこれから、あきらめずに前向きにがんばろうと思いました」(6年生)

(10月26日15:40~放送 メ~テレ『ドデスカ!+』より)

 

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