受験のプロから小学生と保護者へアドバイス 東海地方の中学入試、公立中高一貫校の影響は?

2024年11月19日 16:01

東海地方で2025年度の中学入試シーズンがやってきます。今シーズンは、愛知県で初となる公立中高一貫校(明和、半田、刈谷、津島)の入学者選抜もあります。どのような影響があるのか、中学受験をする子どもや保護者に気を付けてほしいことは…。日能研東海(名古屋市東区)の学校情報担当・藤原康弘さん(46)に聞きました。

日能研東海の藤原康弘さん

――今シーズンの中学入試の日程に変化はあるのでしょうか。

 愛知県全体で、公立中高一貫校の影響がみられます。
 愛知県では、成人の日を含む3連休から2月第1週までの週末に私立中学の入試日が設定されていました。小学校を休むことなく受験できるようにという配慮で、平日にも入試がある首都圏や関西圏ではみられない特徴です。

 愛知県の公立中高一貫校の入試日は、3連休初日の1月11日に1次選抜、翌週末の1月18日に2次選抜となりました。これに重ならないように、入試を前倒しした中学校があります。

 名古屋の女子校の愛知淑徳中学と椙山女学園中学は、これまで入試日が同じで、どちらか1校しか受けられませんでしたが、今回は入試日がずれて2校とも受けられるようになりました。受験者が増えることが予想されます。

 

2025年度に誕生する愛知県の公立中高一貫校

公立中高一貫を意識した私立中学入試も

――愛知の私立中はやはり公立中高一貫校を意識している?

 大成中学(愛知県一宮市)は今回初めて、1月6日に「適性検査型入試」を実施します。公立中高一貫校の入学者選抜と同じスタイルです。私たちは「前受け」と言っていますが、本命校の試験に慣れるためや腕試しとして受けてもらうことを意識していると思います。成績優秀者には入学金と授業料6年間免除という特待生制度もあり、公立中高一貫校の志望者がどれくらい受験するのか、注目しています。

 一方、公立中高一貫校の2次選抜と同じ1月18日が入試日の私立中もあります。出願の締切日は1次選抜の結果が出る前が多いので、出願数はそんなに減ることはないと思いますが、私学側は「受験者が多少減ることは仕方ない」と考えているかも知れません。

――公立中高一貫校にはどのくらいの人数が受検すると思いますか。

 埼玉県では、さいたま市立浦和が中高一貫になった初年度の倍率が20倍を超えました。愛知の公立中高一貫校は普通コースの定員が80人と決まっていて、相当高い倍率になることが予想されます。
 中学受験をする家庭は圧倒的に名古屋市に多く、明和の受検を一度は考えるはずです。さらに明和は交通アクセスもいいので、尾張地方一円から通うことができます。
 三河地方はもともと高校入試に熱心な土地柄ですが、刈谷には豊田市などからも受検する子がいるのではないでしょうか。

 私立中学は歩留まりを考えて定員よりも多めに合格を出しますが、公立でしたら80人にしか合格を出さず、辞退があれば繰り上げるという方法を取ると思われます。

 

公立中高一貫、高い倍率と厳しい競争か

――厳しい競争になりそうですね。

 公立中高一貫は、2次に進める人数は定員の2倍程度としています。もし1000人が受けたとしたら、8~9割が1次で不合格となります。
 1次選抜はマークシート方式なので、ひとまず答案を埋めることができます。「受かるかも」と思う子どもは少なくないでしょう。期待が膨らむほど不合格の場合のショックは大きく、保護者が想像する以上に傷ついてしまうかもしれません。
 公立中高一貫が不合格となり、地元の公立中学に進むことになったとしても、私立で少なくとも1校は合格して、「自分で選択したんだ」と納得できるようにすることをお薦めしたいと思います。

――塾に通っている保護者は公立中高一貫校をどう受け止めていますか。

 日能研は私学を軸に考えている方が中心なので、公立中高一貫校には慎重というか、落ち着いている印象です。
 その理由には、先がはっきり見えない中で子どもを6年間預けられるかということがあると思います。
 例えば入学後の部活や運動会はどうなるのか。1学年の80人だけでは限界があり、かといって高校生と一緒にするにはハードルが高い。また、高校から入学してくる人と混合のクラスになるのか、別のクラスになるのか、はっきりしていない学校もあります。中高一貫は学年にとらわれない学びができることがメリットですが、高校から入る人に合わせるとなるとメリットが減ってしまいます。
 小学校低学年の子どもがいる家庭は、これから数年かけて見極めていくのだろうと思います。

 こうしたことから、今シーズンの私立中学の入試が易しくなったり、入りやすくなったりすることはほとんどないと考えています。

 

公立中高一貫校の難易度「測りきれていない」

――公立中高一貫校の適性検査は、サンプル問題が公表されています。

 しっかりと思考したうえで順番を組み合わせるものや、問題文や表、グラフからわかることを計算を用いて確認する必要があるなど、単なる知識だけでは正解しづらい、非常に練られた出題例でした。
 マークシート方式なので部分点が入ることがなく、ちょっとした読み違えなどで失点が増えてしまうことが予想されます。

 ただ、出題数や1問ごとの配点などがはっきりと公表されておらず、全体の難易度は測りきれていないというのが正直なところです。
 過去問がないという点でイーブンな条件とも言えますが、準備がしづらいので大変だと思います。

 

東海地方でも中学受験者数は増加傾向(日能研の資料から)

「公立王国」でも中学受験は増加傾向

――「公立王国」と言われる東海地方ですが、中学受験者数は増えているとか。

 小学生全体は減少していますが、中学受験の延べ人数は増加傾向で、過去最高を更新する年もあります。その背景には「大学入試改革」と「コロナ禍」の二つがあったと考えています。
 大学入試センター試験が大学入学共通テストに変わるなど、大学入試で求められる力が変わりつつあります。その中で6年間通して学べる環境が評価されています。中学入試の問題も、大学入試の流れを意識したものになっていて、経験しておく意味はあると思います。
 また、新型コロナウイルスの感染が広がった際、私学は各校が独自に対応できました。設備の更新や新しいカリキュラムなど、動きが早いことも好感を持たれていると思います。
 昔なら、私学は「医師や弁護士の家庭」「公立の滑り止め」というようなイメージでした。いまは親の世代が大学を含め私学で学んだ人が多く、一般の家庭も私学を考えるようになってきました。特に名古屋市でそのような動きがはっきりみられます。

 

受験日を「夢がかなう日と考えて」と話す藤原さん

焦った時は「考え方を変えてみて」

――受験を控えた子どもや保護者にどのようにアドバイスしていますか。

 まず出願ですが、スマートフォンで手軽にできるようになった一方で、「ちゃんと出願できただろうか」と不安を感じることがあります。スクリーンショットをしておくなど、データを保管しておくことをお勧めします。
 また、出願の際に疑問があったり、間違いがあった時は、遠慮せず学校に相談してください。出願期間内でしたら、決してマイナス評価などをすることなく対応してくれます。

 そして日程は余裕をもって、「合格」を重ねていけるようにしましょう。
 子どもにとっては、模試のA判定よりも1校の合格の方がはるかに大きなパワーになります。自信がつけば子どもは1週間でも伸びて、逆転合格も十分ありえます。

 あとは家族を含めた体調管理です。勉強も大事ですが、睡眠をちゃんと確保してください。
 感染症だけでなく、ケガにも気をつけましょう。「学校の体育でケガをするのが心配」という声も聞きますが、運動はストレス解消になります。逆に手を抜くことでケガにつながることもありますので、体育はしっかりやりましょう。

――受験日が近づくと、本人だけでなく保護者も焦りますね。

 保護者自身が受験するのではないだけに、「思うように子どもがやってくれない」と余計に焦るんです。
 その不安やイライラを相談できる人を見つけましょう。ご家族など身近な方であることが理想ですが、塾の先生でもいいでしょう。

 残り日数に追い込まれるような感覚になることはよくわかりますが、考え方を変えてみてはどうでしょう。
 入試の日を「子どもの夢がかなう日」だと思うんです。これまで我慢していたことがなくなる、待ち望んだ日。その日にどんなごちそうを食べようか、子どもと相談してもいいですね。

 結果は「ご縁」です。万が一だった場合の選択肢も確保し、「やりきった」と納得できるスケジュールを組みましょう。

(メ~テレ 山吉健太郎)

 

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