今年もまた、あの夏がやってくる・・・
去年43年ぶりに全国制覇を果たした中京大中京を筆頭に春の県大会を制した東邦など混戦模様の高校野球・愛知大会。
参加校数は188校。神奈川や大阪を抜き、全国一の激戦区となった。
そんな愛知大会にこの夏、初めての戦いに挑むのが名古屋市瑞穂区にある名古屋経済大学高蔵高校。
野球部を指導するのは酒井弘樹監督(38)。
普段は2年生の男子クラスを受け持ち、国語を教える先生だが実はこの男、ある意外な経歴を持った人物なのだ。
1993年にドラフト1位で近鉄バファローズに入団しピッチャーとして活躍した元プロ野球選手。
主にセットアッパーとして154試合に登板し、21勝26敗1セーブ、防御率3.68という成績を残した。
しかし阪神に移籍した2001年オフに戦力外通告を受け、30歳という若さでプロの厳しい現実を味わった。
そんな酒井の人生を救ったのが、「教師」への道。
「恵まれた環境で野球をしてきたけど、最終的にその野球でご飯を食べられなくなって。今までなんだったんだろうと自暴自棄に
なったけど、そこでまた教員という目標が出来て新たな活力が沸きました」
2007年に高蔵高校の採用されると、そこから酒井は再び野球への情熱が芽生え出す。
当時は同行に野球部がなかったが、翌年に野球同好会をスタートさせると、2009年から部に昇格。
9人しかいなかった部員は現在22人まで増えた。
そして酒井自身はプロアマ規定が定める「プロ経験がある者は2年間、アマチュアでの指導はできない」という
規定をクリアし、晴れて高校野球の監督となった。
しかし練習場所は何とテニスコート1個分の小さな人工芝のグラウンド。
野球エリートの道を歩んできた酒井にとっては厳しい環境だ。だが酒井は言う。
「工夫する事でカバーはできる。(野球をする環境が)無いなら無いなりの練習があるから心配はしていません」
さらに酒井は自らが指導者となった今を、とても楽しんでいる。
「上手じゃない部員が自分の言った一言で変わった姿を見たとき、本当に嬉しいし指導者になってよかったと感じます」
この夏の目標は1勝。名経大高蔵高校の初戦は何と、開会式直後の第一試合となった。
「(プロ野球という)勝負の世界に生きてきた人間なので、選手たちよりも勝ちたい気持ちは強いと思う」と語った酒井監督。
残念ながら7月10日に行われた愛知大会1回戦で惜しくも稲沢高校に2対0で敗れた。
それでも試合後、酒井監督は「悔しさ」と「充実感」を口にした。
「悔しいの一言。少しずつでもいい、生徒たちは敗因をしっかりと考えて、次につなげてほしい。
でも何もないゼロからのスタートで良くここまでやったと思う。嬉しい気持ちもあります」
1勝を目指した初めての夏は終わった。悔しさを糧に、酒井監督の挑戦はこれからも続いていく――――――――――