4月25日、阪神甲子園球場。
中日ドラゴンズ・山内壮馬がプロ3年目で初勝利を挙げた。
「ずっとこの日を目指してやってきた。やっとドラゴンズの一員になれたと思います」
大学社会人ドラフト1位で中日に入団してから2年、数々の苦難と挫折を経て
ようやくたどり着いたプロ1勝だった。
ルーキーイヤーの2008年は4試合に登板。
横浜での初先発では3本のホームランを浴びるなど4回ノックアウト。
同じような球を痛打され、指揮官の逆鱗に触れた。
試合の途中で名古屋へ帰るよう命じられそのままシーズンを終えた。
2年目は1軍登板、わずか1試合。シーズンの大半を2軍で過ごし、結果すら残すことができなかった。
今シーズン、3年目でのプロ初勝利。そこには一体どんな真実があったのか?
「大学から入ってきて1、2年目に勝てないのが僕の中で凄く悔しかったので」
そう語った山内は2年目のオフ、ドミニカ共和国へと武者修行に出る。
山内に足らないもの、それはハングリー精神だった。日本の恵まれた環境に比べ
決して裕福とはいえないドミニカでの野球生活。山内はそこに衝撃を受けた。
「バスで4時間も5時間もかけて試合に行く、そして試合から夜中に帰ってきて
また次の日も試合に臨むその野球に対する姿勢をを学んでもらいたかった」
派遣した森ヘッドコーチも山内の精神的な成長に期待をした。
山内の目の色が変わり始める・・・
そして今年の沖縄キャンプ。
山内が過去2年間、こだわってきたのが「ストレート」だった。
しかし、このキャンプで大きな決断をする。
「コントロール重視」
これまで理想のストレートを追い求めるあまり、
山内は投球フォームの試行錯誤を繰り返していた。
結果、制球を乱しコントロールがつかない。
その課題に挑み、今シーズンはセットポジションでのピッチングに専念することを決めた。
すると今までバラバラだったコントロールに一定の安定感が出る。
しかし安定感は増す一方でストレートの球速は落ちる。
140キロ台前半にスピードは落ち込んだが、それでも山内は迷わなかった。
さらに変化球に磨きをかける。
今年の山内を象徴するのがドミニカで腕を磨いた「カーブ」と、去年秋から習得に取り組んだ「シュート」。
山内の基本的な配球はストレートでカウントをとり、決め球のスライダーで打ち取るパターンが多かったが、
「ストレートとスライダーの球速差があまりなく、狙い撃ちされていた」と自己分析。
そこで生きるのが縦に大きく割れるカーブだった。
緩急という部分とバッターの目線の目線を変えられるという意味で重要と気付いたという。
また新たな球であるシュートは、一定方向の曲がり(カーブ・スライダー・カットボール・チェンジアップ)
しかなかった山内の変化球に、逆の動きをするシュートがあれば投球の幅を広げることが出来る。
そこに目をつけ、キャンプ中には守護神・岩瀬や投手リーダーの朝倉らシュートを投げるピッチャーから
アドバイスを受け、モノにしていった。
これで準備は整った。
開幕こそ2軍スタートとなったが、ファームで3勝を挙げ4月18日に1軍昇格。
昇格した広島戦で即先発を果たし、6回途中2失点。
前年までとは見違るような山内壮馬のピッチングがそこにはあった。
そしてその1週間後―――――
6回3分の0 球数103球 被安打4 失点2
強打の阪神打線を粘り強く封じ込めた。
山内壮馬のプロ初勝利はこれらの努力で生まれたものだ。
「今年はずっと一軍で投げることが僕の目標。全力で行けるところまで行く」
プロ野球人生のスタートラインにようやく立った中日ドラゴンズ・山内壮馬、24歳。
男の果てしない挑戦はこれからも続く・・・