東海大相模の11年ぶり2度目の優勝で幕を閉じたセンバツ。
その頃敗れた名将・阪口監督率いる大垣日大の選手たちは、母校に戻り夏の大会に向けての練習を始めていた。
そんな中1人黙々と走り込みをしていたのがエース葛西侑也。
夢の舞台甲子園、実はエースはある苦しみと戦っていた。
あの敗戦の裏側に果たして何があったのか?
去年のセンバツ、葛西は2年生エースとして甲子園に出場。
しかし準決勝で沖縄興南打線に打ちこまれてしまい、3回途中6失点で降板。
夢の舞台で苦い経験を味わう事となった。
あれから1年、再び甲子園に戻ってきた葛西。
全国制覇を目標にこの冬徹底的に鍛えあげ、ひと回り大きくなって帰ってきた。
さらに葛西はシュートを習得。全国の強豪と戦うため、新たな武器を身につけ甲子園に挑んだ。
センバツ直前、東日本を襲った未曾有の大地震。仙台の東北高校が欠席のなか行われた抽選会。
大垣日大の1回戦の相手は、その東北高校に決まった。
迎えた1回戦。被災地・東北を応援する大歓声が球場全体を包む。
そんな独特のムードの中、1回大垣日大先頭の畑。
まだサイレンが鳴りやまぬうちに先頭打者ホームラン。
これで勢いに乗った大垣日大打線は1回、いきなり5点を奪う。
大量リードもらった葛西、注目の初戦のマウンド。
葛西は立ち上がりから変化球、ストレートを低めに集め東北打線を打ち取っていく。
最後まで低めを丁寧に投げ続ける。
27のアウトの内、内野ゴロ10個。三振10個を奪い完封勝利。
夢の全国制覇へ最高の形で1回戦を突破した大垣日大の選手たち。
しかしその時、エース葛西はある不安を抱えていた。
実は、センバツ直前に背中の左側を痛めていた。
この冬シュートを完璧に習得するため多投したことが、想像以上に体に負担をかけてしまった。
日本一になるための新たな武器が、逆に葛西を苦しめる結果に。
悩んだ末、葛西は監督に「どうしても投げたい」と直談判。
最後に葛西の気持ちを動かしたのは、ここまで投げ抜いてきたエースとしての自覚だった。
迎えた2回戦の相手は東海大相模。
背中のハリはすでに限界に達していた。
独特なフォームと制球力で勝負してきた葛西にとって、背中の痛みは致命的。
強打の東海大相模打線に打ちこまれ4回途中、8失点で降板。
結局甲子園でシュートを投げることなく葛西の春は終わった。
万全な状態で投げられなかった悔しさ。葛西の目には涙が溢れていた。
あれから1週間、大垣日大のグラウンドに走り込みを行う葛西の姿があった。
今大会の雪辱を果たすため、もう一度イチから筋力アップに取り組んでいる。
葛西が最後に今後の目標を色紙に力強く書いてくれた。
それは「日本一の投手」