2月、沖縄。12球団一厳しいといわれる中日ドラゴンズのキャンプ。
選手たちは新たなシーズンへ、自分を追い込んでいく。
そんな中、プロ16年目を迎えた荒木にとって
今年のキャンプは特別なものとなった。
「これだけ段階を踏んで、自分の中で計画を立てて
しっかり出来た1ヶ月というのは16回目のキャンプで初めてです」
プロ16年目、荒木がキャンプへの取り組み方を変えたのには訳がある。
「やってる時は苦しくて苦しくて。不本意で。
でもそういう風に捉えてもしょうがないし、
それだったら去年1年良かったんだと思うように考えて
先に進むように考えていかないと・・・。」
去年は怪我のために11年ぶりに2軍スタート。
さらに本格的にコンバートされたショートではエラーを繰り返した。
エラーの数は自己最多となる20。セカンドでゴールデングラブ賞を
何度も受賞してきた荒木にとって不本意なシーズン。
しかし、苦しみの中で気付いた事がある。
「セカンドでエラーしても年間5個か6個だったのが
20個やっているわけだから。やっぱりもうちょっと身体を動かして
やらなきゃいけないんだなって気付いたし。
去年はどこか自分の頭の中で野球をやっていた部分があるから、
身体を動かして、本当の野球をやってみたいというのが今年です。」
頭の中ではなく、身体を動かしてやる『本当の野球』。
荒木の今シーズンのテーマである。
キャンプを終え、実戦に入ると荒木の存在感が大きくなる。
3月1日のソフトバンク戦では自慢の足で。
フォーム改造に取り組んできた打撃では結果を出した。
そして2年目となったショートの守備。確実に進化を感じている。
「スッとそこに足が向いていくようになった。
むかしセカンドに守りにいった時のように、
グローブ持ったらそのままショートに行くという、そこが大きな違い」
ショートにいることが普通になった。
開幕前の練習日。ショートの位置で荒木と井端が揃ってノックを受けていた。
ノック後、ベンチ前で話し込む2人。荒木にとって井端は特別な存在である。
「最初ゴールデングラブをとり始めた時から
あの人と一緒にノックを受けて、あの人は体力あるし
俺も負けていられないなって、そうやってきた間柄だから・・・」
セカンド荒木、ショート井端のアラ・イバコンビ。
2人でリーグを代表する二遊間となった。
しかし守備位置をコンバートした去年、井端は体調不良で
出場試合数が激減。荒木は新しいポジションで自己最多のエラー。
これまで当たり前のように手にしてきたゴールデングラブを手放した。
2人で輝きを取り戻す。今年にかける思いが重なる。
「2人してドーンと一回落ちてますけど、もう一回しっかりやれば
また違うなっていうところを見せられるだろうなって・・・。
昔みたいに必死についていかないといけないですよね、井端さんに・・・」
「荒木と2人去年ゴールデングラブがとれていないので
やっぱりもう一度、他のチームとかファンにいい印象を与えられるように
頑張りたい。試合でいい連係プレーとか・・・。」
開幕へ向け順調な調整ぶりを見せていた荒木にアクシデントが起きる。
4月3日の巨人との練習試合。
ゴロを処理したあとの送球が大きくそれ、エラー。
直後のベンチで落合監督と話しこむ荒木。
このあとグラウンドから姿が消えた。
2軍スタートとなった去年の悪夢が甦る。
1週間後、チームはホームで開幕前最後となる調整を行った。
そこに荒木はいた。
練習試合を2試合欠場したが、グラウンドで見せた元気な姿。
2年ぶりの開幕戦へ準備は整った。
「開幕戦はいないといけないところだと自分で思い込んで
やってきているから・・・。
去年、出遅れた分はやり直したいなと思います。」
4月12日、横浜スタジアム。
チームにとっては8年ぶりのビジターでの開幕、
荒木にとっては2年ぶりの開幕戦。
プレーボール直後の初球をいきなり叩く。サードゴロに倒れたものの
持ち味の積極的なバッティング。まずは身体が動いた。
一方、試合は先発のネルソンが打ち込まれ横浜にリードを許す。
4回表、荒木の第2打席。
2年ぶりの開幕戦できっちり今シーズン初ヒットを放つ。
このヒットをきっかけにノーアウト満塁のチャンスを作り4番和田がライトへ。
浅いフライにも関わらず、荒木はタッチアップし、ヘッドスライディング。
気迫あふれる走塁でチームの今シーズン初得点を奪った。
このあと一度は逆転に成功するも、最後はサヨナラ負け。
開幕戦を勝利で飾ることは出来なかった。
それでも荒木には2年ぶりに開幕戦を戦えた充実感が漂っていた。
「思い切ってプレーは出来たので、頭からいけたし、
今年もいい感じで入っていけます。」
翌日の第2戦。
荒木は好走塁で先制のホームを踏むと、守備でも好プレー。
ハツラツとした動きを見せた。
今年のテーマは頭の中ではなく身体を動かしてやる『本当の野球』
この日、チームは待望の今シーズン初勝利を挙げた。
その瞬間、ガッツポーズを見せた荒木。
プロ16年目。新しいシーズンはまだ始まったばかりだ。