2月、今年もまたプロ野球の季節がやってきた。
去年チーム史上初のリーグ連覇を達成した中日ドラゴンズは
高木守道新監督のもと3連覇へ向け、厳しい練習を行っている。
キャンプでは激しい競争の中、生き残りに必死な若い選手たちが
懸命に力を振り絞り、練習に取り組んでいる。
一方でプロ17年目を迎え、ベテランの域に差し掛かってきた
荒木雅博も例年と同じく黙々と練習に打ち込んでいた。
「野球選手は若手もベテランも関係ないわけだし
体力がある限りできる限りのことはやっていきたいなと。
前の自分がやってきたことは全て忘れて無かったことにして
過去はもう捨ててという感じです。」
34歳、荒木雅博の想い。
プロ17年目の今シーズンにかけるその覚悟に迫った。
1月上旬、荒木は今年もふるさと熊本で始動した。
生まれ育った場所での自主トレはこれで3年連続。
テーマは例年通り下半身強化。しかし今年は大きな変化があった。
これまで一人で行うことが多かった自主トレに10歳近く年が離れた
大島、平田、中田亮二を同行。若手選手に自ら声をかけたのだ。
「ちょうど僕も年をとって妥協しかけるときが出てきたので
若い子を入れて一緒にやったら、あの子達が妥協せずに
やってくれればそれについていけるかなと思って・・・。」
17年目にして微妙な心境の変化が起きていた。
逆転優勝を果たした昨シーズン。荒木はリードオフマンとして
十分にその役割を果たした。
打率・得点・ヒット数はチームトップ。
シーズン終盤には誰にもまねすることの出来ないプレーで
チームに勝利をもたらした。
今年も求められるその役割に変わりはない。
キャンプイン前日。選手宿舎の荒木を訪ねた。
ツインルームの部屋の中には畳が敷かれていた。
素振りをするためのスペース。
プロ17年目、34歳になっても部屋での練習は欠かさない。
「自主トレから少し例年よりあげているから、
もうベテランだからとか、そういう気持ちはいっさい持たないようにして
新しいことに挑戦していくというのは常に持ち続けていきたいから」
2月1日、キャンプイン。
荒木は例年と同じように練習に打ち込んでいた。
キャンプ3日目。通常メニューが終わった後、
荒木がサブグラウンドに姿を現した。
個別で守備練習する若手に交じりノックを受ける。
本来の動きには程遠かったものの、その顔からは笑みがこぼれた。
「まだ足が出来上がっていません。見といてください。」
第2クールは谷繁・和田らのベテラン組での調整となった荒木。
そんな中、連日居残りでノックを受け、黙々とボールを追う。
プロ17年目のベテランが追い込んでいく姿は鬼気迫るものがある。
今シーズンからセカンドに戻ることが決まった。
3年ぶりとなるかつての定位置。34歳になってまた、新しい挑戦が始まる。
第2クール最終日。練習を終えた荒木に今年の抱負を聞いた。
「ファンサービスと今年はよく言われるので
もちろんサインはちゃんとしているんですけど
全ての人にハツラツとした自分のプレーを見せるというのは
平等なファンサービスですよね。
去年の僕のヘッドスライディングだったり、ああいうプレーって
盛り上がりますしファンも見ていて楽しいだろうし、
そういうプレーをなるべく多く、楽しんでもらえる野球をしたい。」
最高のプレーでファンを楽しませる。
そのためにも自らを追い込んでいく覚悟だ。
「若い子はランニングにしても10本走るから荒木たちは
7本でいいよ、8本でいいよ、といわれるのが嫌ですね。
そういうところから年齢がね、どんどん老け込んでいくんで
自分はベテランだ、今までの実績もあるし、と思い出した時には
もう落ちていきますよね。」
荒木にとってベテランとは・・・。
「やりたい事を好きに練習できる人かな。自分の思った事を
チームの練習だけじゃなくて自分で考えて・・・。
今まで色んな練習方法を取り入れながらやってきて
色んなバリエーションを持っている人がベテランですね。」
キャンプも第3クールに入り、ベテランと呼ばれる選手達も
いよいよ実戦に参加する。もちろん荒木もその中の一人だ。
プロ17年目、荒木雅博。
34歳のリードオフマンはまだ、その歩みを止めるつもりはない。