今月16日のオリックス戦。
同点で迎えた延長11回チャンスで荒木が
決勝タイムリースリーベースを放った。
荒木のひと振りでチームは2年連続で
交流戦の勝ち越しを決めた。
チームを引っ張るリードオフマン、荒木雅博。
3年ぶりに復帰したセカンド。
チームを救う好プレーに隠された真実。
「意識して練習からしっかり動くように、
楽をしないようにやってきているから・・・。」
落合前監督指導のもと、始めた打撃改造。
3年目にしてつかんだ手応え。
「同じ事を毎日毎日やっていて、その中でちょっとずつ
気付くことがあって、手の使い方そういう事かなって・・・。」
プロ17年目、34歳。いまだ進化を続けるその秘密に迫った。
2月、沖縄キャンプ。
荒木は例年通り、連日居残りで一人黙々とノックを受けていた。
「楽しみ。確かに自分で横着していたなというのが
セカンドでやっていた頃は、ショートにいって分かったから。」
3年ぶりに戻ることになったセカンド。
荒木本人も自分がどう変わったのか、楽しみにしていた。
荒木はシーズン序盤から抜群の存在感をみせる。
ファインプレーで幾度となくチームのピンチを救った。
そして5月30日のオリックス戦。
同点で迎えた、延長10回のピンチ。
センターへ抜けそうな打球を荒木が捕り、ホームへ。
オリックスに勝ち越しを許さなかった。
その裏、森野が劇的なサヨナラホームラン。
荒木のプレーがチームの勝利につながった。
しかし、このプレー以上に
荒木が手応えをつかんだプレーがあるという。
5月27日のソフトバンク戦。同点で迎えた5回。
ツーアウト2塁のピンチで荒木が
二遊間へ飛んだ打球を逆シングルで捕り、
ジャンピングスロー。
「タイミングもドンピシャだったんで。」
3年ぶりに戻った定位置でブランクを感じさせるどころか
本人も納得の完璧なプレー。
さらにこのプレーには荒木のこだわりが隠されていた。
荒木はピンチの場面では、
基本的に守備位置をセンター寄りにするという。
「やっぱり(センターの方が)距離もあるし、
マウンドもあるから投げづらいし、
だからそこだけは抜かれたくないなというのは
いつもありますね。競った場面では・・・。」
ピンチでは打球が抜ければ点を失う可能性が高い
センター寄りに守り失点を防ぐ。
積み重ねてきた経験から。
だがそれが全てではない。
「意識して練習からしっかり動くように、
楽しないようにやってきているから。今年もずっと。」
練習から楽をせず、しっかり脚を動かす。
ショートにコンバートされた2年間で得た事を
3年ぶりに戻った定位置で生かそうとしている。
「まだまだね。去年、おととしと2年間やったショートが
生きてくるのは。ここから先、まだまだ先だと思うから・・・」
セカンドにただ戻るのではなく、進化した姿へ。
荒木の挑戦は始まったばかりだ。
今月9日の楽天戦。
1回、荒木のバットから快音が響いた。
通算6本目となる先頭打者ホームラン。
交流戦が始まると同時に、湿りがちだった
荒木のバットの状態が一気に上向いた。
2割2分6厘だった打率は、終了時には2割7分へ急上昇。
期間中の打率3割4分は全体4位の好成績。
今シーズンのヒット数は70本を数え
リーグ最多タイとなっていた。
荒木の3年越しの打撃フォーム改造が
結果となって出始めていた。
おととしのシーズン終盤。
荒木はバッティングフォームの改造に着手した。
挑戦したのはバットを体の前でゆったりと構える神主打法。
三冠王を3度も獲得した落合博満前監督の
現役時代のバッティングフォーム。
去年も直接指導を受けるなど、フォームを自分のものにし、
結果を出すために、試行錯誤を繰り返していた。
そして3年目となった今シーズン、確かな光が見えてきた。
「分からないときもあったけど、やり始めたことはやっておこうと
思ったのがようやく良くなってきたかなという感じですね。」
おととし、去年、そして今年。
分からない時でも考えながら続けてきた。
「同じ事を毎日毎日やっていて、その中でちょっとずつ
気付くことがあって、同じ打ち方でそれを試してやっているから
そうやって気付くことがあったという事で・・・。」
同じ事を試しながら続けたからこそ、
気付いたことがある。
「バットの出し方、手の使い方と。そういう事かなって。」
荒木は交流戦の途中から、フリーバッティングが終わると
トスバッティングをするようになった。
しかし、その打ち方は少し変わっていた。
通常のトスバッティングは、普段の打席と同じように
投げる人に対してバッターの体は横を向く。
ところが荒木は投げる人に対して体を正面に向けている。
明らかな違い。
「あれが一番いい手の使い方ができる。
あれを普通に構えて、あの手の使い方が出来れば合格かな。」
今のバッティングで結果を出すために行っている練習。
何をすればいいのかは分かり始めてきた。しかし・・・
「まだ出来ていないですよ。試合の中でもうちょっと
あのトスバッティングみたいな手の出し方をしておけば
今のヒットになったのになとか、思うときもあるし。」
やらなければならないことは、分かってきているが、
まだ思いどおりにはなっていない。
それでも荒木に焦りはない。
「思ったように出来ないし、結果も出ないしとかなってきたら
諦めようかなとも思うけど、どこかでそこで頑張りなさいという。
やっぱり続けないと。
自分は急にドンって技術が上がったわけでもないし、
ちょっとずつここまでやってきた人間だから・・・。」
少しずつ、少しずつ。
継続することで進化し、プロで17年目を迎えた。
そんな荒木に聞いてみた。
ヒット数と打率どちらを重要視している?
「ヒットの本数。だってフォアボールとれないですもん。
率なんて上がる訳ないじゃないですか。
じゃあ、ヒットの本数増やしていかないと(笑)」
今週水曜日の阪神戦。
荒木は1回の第1打席でセンター前にヒットを放った。
これがプロ通算1600本目のヒットだった。
「これからが楽しみですよ。楽しみにしていてください。」
6月29日現在、荒木のヒット数はチームトップの74本。
プロ17年目、これからも継続する力を武器に進化するつもりだ。