スポーツの素晴らしさは夢に向かって挑戦し続けるアスリートの素晴らしさ。密着取材でアスリートの真実の姿を描き出します。
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2008/09/13放送
8月の北京オリンピックで悲願の金メダルを目指して戦った野球日本代表。
しかし、その戦いは苦戦の連続となった。
そんな中で初めて日の丸を背負ったドラゴンズの荒木雅博が十分すぎるほどの活躍を見せた。3位決定戦のアメリカ戦での先制ホームラン。再三の好プレーなど。予選リーグの韓国戦から怪我で欠場したロッテ西岡に代わり2番セカンドでスタメン出場を果たすと代表の星野監督が「あいつは外せない」というように攻守に欠かせない存在となった。
そして、金メダル獲得の可能性をかけて戦った準決勝の韓国戦。大一番に自然と緊迫感が高まる。
1回表、ノーアウト2塁といきなりチャンスをつかんだ日本。ここで打席に向かった荒木に信じられないような事態が起こる。
「送りバントする前に気分が悪くなりましたね。タイムかけて吐いてからもう一回入ろうかという」
これまで何度も大舞台を経験してきたはずの荒木が、一流のプロが吐き気をもよおすほどの重圧。
強烈なプレッシャーの中でのプレー。想像を超える精神的な苦痛。だが…
「あんなプレッシャーは初めて。でもその分、自分にとってはものすごい財産になった。」
オリンピックから帰国した翌日。荒木は自らスタメンに志願し試合で結果を出した。
チームは今、クライマックスシリーズ進出をかけて厳しい戦いが続いている。
当然、リードオフマンの荒木にかかる負担も増している。しかしこの事態を驚くほど前向きに捉えている。
「今までだったら汲々になってやっていると思う。3位死守しなければみたいに。でも今はそういう感じじゃない。オリンピックの経験があるから、まだ上に行こう。最後にはまた日本一にと思える」
極限の戦いから得た心の余裕。
そんな中、9月9日の試合で荒木は盗塁を決め、5年連続となる30盗塁を達成した。
その日の夜、行きつけのお店で遅い夕食をとる荒木。自身のひとつの目標を達成し、安堵感が漂っていた。だが…。
「自分の成績は気にならなくなった。とりあえず、どうやったら勝てるかばかり。」
今、考えるのは個人の事ではなく、チームの勝利。日本一に挑むためには最低でもクライマックスシリーズの出場権を得なければならない。すでに疲労は極限状態にあるが、そのためなら何でもする覚悟はある。
「ここまできたらオリンピックじゃないけど、気持ちの強い方が上がっていくから。シーズンが終わる頃には動かなくなるまで動いてみようと。体にムチを打ちまくって。苦しいですけどね。本当に苦しいけど、それが最後に良い方にいけばいいから…。」
荒木にとってオリンピックとはなんだったのか、改めて聞いてみた。
「テッペンですね。間違いなくプラスになると信じているから。」
オリンピックという「テッペン」で得たもの。正念場を迎えた今シーズン。無駄にする気はない。