「明るいダークツーリズム」戦争遺跡×地域の観光資源 愛知の学生が学んだ戦後79年
2024年8月15日 08:07
15日、79回目となる終戦の日を迎えました。時の経過とともに薄れゆく戦禍の記憶をどう伝えていくか。「ダークツーリズム」という取り組みをご存じでしょうか。
7月、名古屋駅に集まった椙山女学園大学の学生たち。バスツアーの目的はーー
「知多半島に戦争に関する遺構がたくさんあることに気づいた。“自分ごと”として考えられるようなテーマを見つけてもらいたいということで、今回の調査を行います」(椙山女学園大学 水野英雄准教授)
戦争や災害が起きた場所を訪れて学ぶ「ダークツーリズム」。
多くのユダヤ人らが虐殺された、アウシュビッツ強制収容所や、2001年の同時多発テロで倒壊した旧ワールド・トレード・センター跡地のグラウンドゼロ。日本では広島県の原爆ドームや沖縄の「ひめゆりの塔」などが代表例とされていますが、自分たちの身近にある戦争の爪痕にも目を向けてほしいと「観光経済学」が専門の水野英雄准教授のゼミでは去年から愛知県内の「ダークツーリズム」を研究しています。
戦争について、学ぶ学生たち
戦争遺構と観光資源を組み合わせる「明るいダークツーリズム」
「戦争遺構を維持するのもお金がかかる。観光と資源を活用して、そのお金でダークツーリズムの遺構を維持していく。悲惨やかわいそうという学びではなく、こういう状況を起こさないためには何をすべきかというところまで踏み込んで考えてもらう」(水野准教授)
この日、向かったのは知多半島。まず訪れたのは半田市で人気の観光施設、ミツカンミュージアムです。
「過去の平和学習の経験を聞くと、沖縄に行った学生が多かった。本当に悲しくなって、その印象しかない。バランスよく楽しめる場所と学べる場所を取り入れるのが『明るいダークツーリズム』の考え方」(水野准教授)
2022年にゼミ生が提案した「明るいダークツーリズム」。戦争遺跡と他の観光名所を組み合わせて訪問しやすくすることが狙いです。
半田赤レンガ建物に残る銃撃の跡
銃撃の跡から見える当時の状況
続いて向かったのは「半田赤レンガ建物」。カブトビールの製造工場だったこの建物は戦時中、戦闘機を作る会社の倉庫として使われました。
壁に空いた無数の穴はアメリカ軍の戦闘機による銃撃の跡です。
「銃痕が下から上にえぐって残っているのを見て、飛行機の高さが低くて、低いところから撃っている姿が想像できた」(学生)
その後、学生たちを乗せたバスは美浜町にかつて存在していた海軍航空隊の滑走台の跡地へ。
南知多町・中之院の軍人像
戦争の爪痕に触れる
最後は南知多町にある中之院の軍人像を見学しました。1937年、上海の上陸作戦で戦死した兵士たちとされています。
「想像以上に生々しいです。自分たちと同じ年代の人が亡くなったことが、ここにきて現実味を帯びてきた」(学生)
「一人一人の人生を考えたら、苦しい気持ちになった。私たちよりも下の年代の子も、こういうことがあったということを風化させないために明るいダークツーリズムで訪れるのも教育旅行の一つとして良い案だなと思ったので、がんばって広めていけたらいいなと思う」(学生)
ダークツーリズムについて発表する学生たち
戦争遺跡を教育旅行へ
実際に見て学んだ知多半島の戦争遺跡を修学旅行などの教育旅行に組み込めないか。大学に戻って、アイデアを出し合いました。
そして自分たちでまとめた「ダークツーリズム」を8月11日、半田市内の「ピース・フェスティバル」で発表。
「戦争の恐ろしさは絶対に忘れてはならず、受け継がれていくべき歴史であり、課題であります」(学生)
「私たちは戦争や災害という、暗いテーマと他のテーマを組み合わせることで、訪問しやすくする明るいダークツーリズムを提案します。また、愛知県の教育旅行での訪問客を増やすことを目標とします」(学生)
半田赤レンガ建物や中之院の軍人像などを紹介するとともに、今回の現地調査を通じて感じたことを参加者に語りかけました。
「半田赤レンガの銃弾痕が生々しく残っていたんですけど、施設には幅広い年齢層の人が楽しそうに施設を巡っていたので、こういう施設は、私たちがやっている明るいダークツーリズムの教育観光とか、そういったものをもっと強く進めていくべきだと学びました」(学生)
地元の人との交流で、戦争について学ぶ学生たち
地元の人の反応は…
学生たちの発表を聞いた、地元の人はーー
「戦争や災害について積極的にコミットしていこうということに感動しました。僕らにはなかった発想です。戦争遺跡を使って、広島や長崎などに行かなくても、身近に戦争遺跡がたくさんあって、我々もまじめに戦争について考えていかないといけない」(半田市民)
この日は、発表を聞いた人たちと交流する時間もあり、学生たちは愛知を舞台にした「ダークツーリズム」の実現に確かな手ごたえを感じたようです。
「現地調査で私たちは、戦争を自分ごととして捉えることができるようになった。戦争について知っている人と知らない私たちをつないでいく、そういう機会はもっと増やすべきだと思いました」(学生)
「大人の人としゃべって、『まだまだ教えたいことがある』と言ってくださった人もいるので、一緒に話して、活動をどんどん大きくしていきたいなと思いました」(学生)