ドライブ中の車に落雷、電子機器壊れる 自動化・電動化進み火災や誤作動の危険も

2024年10月14日 18:43

ドライブ中の車に雷が落ちた瞬間がとらえられました。専門家による調査で明らかになったのは、電動化が進む交通社会への“雷の脅威”です。 

車に雷が落ちた瞬間のドライブレコーダーの映像

 8月中旬。雨の中、岐阜県内の堤防道路を走る車のドライブレコーダーの映像。進行方向の空を覆う黒い雨雲。次の瞬間ーー。

 "ドン"という音とともに、フロントガラスに広がる光。運転中の車に雷が落ちた瞬間です。

「光と音が一番印象的でした。ホーンが勝手に鳴って、ハザードランプが勝手についている状況。電子系の各ユニットが暴走しちゃっているような状態だった」(落雷被害に遭った男性)
 
 落雷の直後、エンジンは止まり、車の操作がしづらい状態に。

「アクセルを踏んで反応がなかったので、メーター周りを見た。できるだけ路肩の広い所に寄せようと、惰性で動いたが見当たらず、一車線塞ぐ形になりました」(落雷被害に遭った男性)

 警察に交通整理を依頼した男性。家族とのドライブ中でしたが、全員けがはありませんでした。

 当時の天候を振り返ると、現場周辺には台風の影響で雨雲が流れ込んできたところで、雷も頻繁に観測されていました。

 

落雷事故にあった車

雷が落ちやすい部分は

 落雷被害にあった車は、修理工場に保管されています。エンジンはかかりますが、動かすことはできません。見た目はどこも壊れていないように見えますが…。

「アンテナには落ちるんですよ。すごく」(中部大学工学部 山本和男教授)
 
 雷による事故対策などの研究を専門とする、中部大学の山本和男教授。落雷の被害にあった車の調査を先月行いました。

「フロントガラスの中に埋め込んでいるアンテナめがけて(雷が)入ろうとすることも。一番多いのはルーフ」(山本教授)
 
 もう一度、落雷の瞬間の映像を見てみます。
 
 右側にあるアンテナが何らかの衝撃を受けたのがわかります。アンテナには塗装などが溶けて剥がれた様子が見られました。このあと雷のエネルギーはどこへ行ったのでしょうか。

 

ホイールには雷が抜けたとみられる穴があった

電子機器を破壊、ホイールから外に

「アンテナから内部のいろんな電子機器に入り込んで、恐らくホイールからタイヤの表面で大地に逃げているはず。ホイールにピンポイントの穴があるはず」(山本教授)

 ホイールには、雷が抜けていったとみられる小さな点が確認できます。そのホイールからタイヤを伝う「筋」が残っていました。

 アンテナに落ちた雷は、車の金属部分を伝って、右後ろのタイヤから地面へ出ていったと山本教授は推測します。
 
 室内に電気は流れ込まず、乗っていた人への影響はなかったものの、雷は車の電気系統の一部を破壊しました。

「最近の車は、安全装置や様々な電子機器が搭載されている。今回はそれほど大きな雷ではないと思うが、小さな雷でも簡単に車のコンピューターなどが壊れやすい状況にあるのが分かりました」(山本教授)

 

茨城県で落雷を受け焼けたとみられる車

落雷によって火災の危険も

 これは、JAFの実験映像です。人工的に作り出した雷を車に落としたところ、機器が誤作動を起こし、エアバッグが開いてしまいました。

 実際に運転中に落雷があった場合、運転手だけでなく周辺にも危険が及ぶ可能性があります。

 愛知県春日井市にある山本教授の研究拠点。車や風力発電施設への落雷事故防止の研究などが行われています。

 こちらは過去に茨城県で調査をした車の写真です。駐車場にとめられていた車に雷が直撃し、火災が発生したといいます。

「フロントの周り、エンジン周辺で火元があることがわかっている」(山本教授)

 屋根には落雷の痕とみられる複数の点が。雷が電子機器にどんな影響をもたらし、火災につながったのでしょうか。

「雷が落ちると電気電子機器が壊れて、バッテリーから大きなエネルギーが電気電子機器に供給されて、大きなエネルギーが火災の原因になっているのではと考えている」(山本教授)
 
 ショートした電子機器にバッテリーから大きなエネルギーが流れ込み、火災を引き起こすというのです。

 さらに驚きなのは、車が駐車されていたアスファルト部分が焼け焦げていたことです。

「雷の放電がアスファルトに入り込むことで、一部がめくれ上がる。熱を持った放電が入り込むと、熱の膨張で中の水分が水蒸気となって体積が増えて膨らむ」(山本教授)
 
 樹脂製の車止めは溶けてしまっています。瞬時にして被害を拡大させる雷の危険性がわかります。

 

雷による事故対策などを研究する中部大学工学部の山本和男教授

「落雷事故は軽くみるわけにはいかない」

 茨城県の事故と岐阜県の事故。2つの落雷被害の共通点は「周辺に高い建物などがない」ことです。
 
 岐阜県の現場は、長良川の堤防沿いの道路でした。落雷事故に遭った車を移動したレッカー車のドライバーに話を聞くとーー。

「また似たような場所だなという印象。過去2回も堤防の道路で周りが何もない場所で救援に行った」(杉本商会 小椋宏志さん)
 
 小椋さんが知る限り、落雷事故の対応は会社全体で5件に上ります。

「夏場は多いですね。お盆を過ぎてからとか。9月は特に多いですね」(小椋さん)
 
 雷の調査をする「フランクリン・ジャパン」によりますと、落雷が多い6月から9月にかけ、今年東海3県で発生した落雷の回数は5万330回。今回の事故が起きた8月15日は岐阜県で4700回を観測しました。

 自動運転や電動化など、日々技術が進化している交通社会。落雷事故は決して軽くみるわけにはいかない、と山本教授は指摘します。

「車に雷が落ちても安全に車を停止させ、車中の人が安全に退避できる。このあたりを実現して今後の車社会を考えていかなければいけない」(山本教授)

 

運転中に落雷事故に遭った時の注意点

もし落雷事故に遭ったら?

 もし運転中、落雷事故が起きたらどう対処するべきでしょうか。

 JAF愛知支部によると、車を止めて救援を呼ぶ。雷雨が続いている状態なら、外に出るのは危険なので、車内で安全を確保すること。

 事前に天気アプリで「雷注意報」が出ていないかを確認し、雨雲が近づいているようであれば、移動の時間を早めたり、雨雲が通りすぎるのを待つなども大事です。

 

これまでに入っているニュース