“人の悲しみを癒す” 異例のロングラン映画「骨なし灯籠」監督の故郷・名古屋で凱旋 熊本では連日満席に

2024年10月20日 06:01

熊本県山鹿市(やまがし)の歴史ある街並みと文化を舞台にした、映画「骨なし灯籠(とうろう)」が10月18日から名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマで公開されています。1時間48分の上映が終わると、鑑賞する客で埋められた場内は、作品への共感と余韻に包まれました。

木庭撫子監督(提供:熊本やまが映画プロジェクト)

先に思いついたのは「タイトル」その後ストーリーを

 脚本・監督の木庭撫子(こば・なでしこ)さんは、名古屋市出身の脚本家、放送作家として活躍。名古屋や東京のテレビ局に勤めてきた夫で本作品のプロデューサー民夫さんの定年を機に、夫の故郷である熊本県山鹿市(やまがし)に移住しました。

 2人は「熊本やまが映画プロジェクト」を立ち上げ、今回の映画作りを始めました。

 「タイトルをまず先に思いついたところからストーリーを作ったんです。『(伝統工芸の)山鹿灯籠(やまがとうろう)』って和紙で作られていて骨がないから“骨なし灯籠”とも言われています。それで逆に、“骨(骨壺)を持った主人公”が登場したらどうだろうと」(木庭撫子監督)

 冒頭、亡くなった妻の遺骨を納めた骨壺を抱えて山鹿を訪れる、主人公の市井祐介は、深い悲しみからまるで死に場所を求めに来たかのように街をさまよいます。

 美しい山鹿の映像に骨壺を抱きかかえた男の姿。一見いびつに感じられるその光景が、主人公を見守る登場人物たちによって徐々にしっくりと各シーンの中に落ち着いていきます。

 

骨壺を抱えさまよう主人公・祐介(提供:熊本やまが映画プロジェクト)

観客は映画を自身の経験と重ねていく

 主人公・祐介は住民たちのさりげないやさしさに包まれて、山鹿での生活を始めます。それでも断ち切ることができない亡き妻への思い。そこへ妻に似た女性と出会い、祐介の人生が動きはじめます。

 「この映画はああしなさい、こうしなさいとか、頑張れとかそういうセリフは一切ないです。登場人物がさりげなく接しながらもちょっと気を配っている優しさを心がけました」(木庭撫子監督)

 最愛の妻を失った主人公の大きな悲しみを、だれかがひとりで受け止められるものではありません。

 さりげない毎日の中でたくさんの人たちに声をかけられながら主人公は前に進んでいきます。観客は、映画を追いながら自身の経験を重ね、作品への共感を呼びます。

 

木庭撫子監督(左)と木庭民夫プロデューサー(右)

夫の故郷で立ち上げた映画プロジェクト

 資金調達に奔走し、クラウドファンディングも活用、さらに2人の蓄えもつぎ込みました。メガホンは撫子さん自らが取ることに。

 映画の完成後は上映場所を探さなければなりません。熊本市で創業110余年の歴史をもつミニシアター「Denkikan(でんきかん)」が熊本発の映画の上映を意気に感じ2週間の上映が決まりました。

 「様々な映画が毎年製作され、日本では多くの作品が2週間という上映期間になっています」(木庭民夫プロデューサー)

 こうして、今年3月下旬に熊本市内で公開された「骨なし灯籠」は、夫婦の想像を超える結果をもたらしました。

 連日満席となり、劇場側も上映の延長を決め8月15日まで、約5ヵ月近いロングランとなったのです。

 「ミニシアターでは普通1000人動員できればよい方と言われるなか、約5800人と記録的大ヒットとなりました」(木庭民夫プロデューサー)

 「映画館のオーナーが『最後まで駆け込みで入るっていうのは、本当に愛されている映画なんだ』と」(木庭撫子監督)

 「心の中に寂しい気持ちを抱えて生きている人が実は世の中にはたくさんいて、この映画は人の悲しみを癒している」(木庭民夫プロデューサー)

 

舞台挨拶の様子(名古屋・中村区 ミッドランドスクエアシネマ 19日)

夫婦の悲しみも紡がれる

 「人を亡くした悲しみをいやす映画」。実は撫子監督は山鹿に住む前に両親を亡くしていて、夫の民夫プロデューサーは20年ほど前に前妻を事故で亡くす過去を持ちます。

 「骨なし灯籠」の背景には2人の悲しみが紡がれています。

 全国に向けた上映は7月公開の神戸では、3週間で1500人を動員。そして、今回の名古屋での3週間の上映へと広がりを見せています。

 愛知県では、10月18日~24日、名古屋市中村区名駅の「ミッドランドスクエアシネマ」と、10月25日~11月7日、愛知県豊山町の「ミッドランドシネマ名古屋空港」で上映されます。

 20日(ミッドランドスクエアシネマ)と26日(ミッドランドシネマ名古屋空港)には、舞台挨拶もあります。

(メ~テレ記者 川村真司)
 

 

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