容赦なくすべてを奪う津波 意外と知られていない「津波の怖さの理由」【暮らしの防災】
2025年1月26日 14:01
多くの日本人は十数年前まで「津波の本当の怖さ」を理解していなかったと思います。しかし2011年の東日本大震災の惨状を目の当たりにして驚愕しました。そして、その記憶が薄れかけた(ヒトは何て忘れやすい生き物なのか)、2024年元日の能登半島地震で、また…。津波は、有無を言わせず容赦なくすべてを奪います。意外と知られていない「津波の怖さの理由」を紹介します。
津波は「高」と「深」
津波は「高」と「深」
「津波の高さ」は、津波がない場合の潮位(平常潮位)と、津波で上昇した海面の高さの差です。
気象庁が津波情報で発表している「予想される津波の高さ」は、海岸線での値です。
津波情報の種類
津波情報の種類
また「津波は〇〇mまでかけあがりました」というニュースを聞くと思います。これは「海岸線」での高さではありません。
「かけあがる」と言う表現がポイントで、津波が陸のどこまで這い上がったか、その高さを示します。「遡上高(そじょうこう)」と言います。
東日本大震災で「40mの津波」と言われることがありますが、これはこの「遡上高」のことです。
浸水深からわかる津波の力
浸水深からわかる津波の力
ここまでは「高」でしたが、もう一つ「深(しん)」で示す「計測値」があります。「浸水深(しんすいしん)」です。「浸水深」は地面(地盤)から測った津波の高さ(深さ)で、洪水や内水氾濫の時でも使う用語です。
「津波の高さに関する情報」には、この2つが混在している場合があります「高」なのか「深」なのか、チェックしてください。明示されていない場合は、情報発信元に確認してください。私は、「平常潮位からは『高(こう)』」、「地面からは『深(しん)』」と覚えています。
津波はこの陸上での「深さ」も重要です。例えば、「50cmの深さ」というとみなさんどう思いますか。大人だとひざ下ぐらいになります。ただの「止まった水」であれば、その深さでも歩けます。
しかしキャンプに行った時の、少し流れが早い渓流を思い浮かべてください。足を流れにとられそうになることもあります。そんな流れの中を難なく歩けるでしょうか?子どもならより危険です。水が流れていく「力」を忘れてはいけません。30、50cmの津波は、とても危険です。
高知県HP「高知県防災マップ」より引用
陸に上がった津波はどのような恐れが?
では陸に上がった津波は、どのような恐れがあるのか?高知県防災マップのHPのイラストを見てみましょう。
■1.0m 津波に巻き込まれるとほとんどの人が亡くなる
■2.0m 木造家屋の半数が全壊する
■3.0m 木造家屋のほとんどが全壊する
■5.0m 2階建の建物が水没する
となっています。そして「木造家屋は避難に適さない」と。確かに、東日本大震災、能登半島地震の時の映像を見ると、2階建の木造家屋や自動車が津波に流されて行きます。
<引き波の力>
「津波」というと、押し寄せるシーンばかりが頭に浮かぶと思います。当たり前のことですが、押し寄せて陸に上がった津波は、海に戻って行きます。
津波が海に戻るときの「引き波」は、かなり大きなエネルギーを持っていて、陸上にあったものを、一気に沖に引きずり持っていきます。人々も、倒壊した建物も、自動車も船も、すべて海に持っていきます。膨大な量の海水に乗って「さまざまなモノ」も流れて行きます。凄まじいパワーです。
「海岸に到達した津波」「陸に上がった津波」「海に戻っていく引き波」。どれも危険です。この恐ろしさを、頭にいれておいてください。
<高台へ避難>
津波対策は、事前の「高台移転」と、発災時の「即座の避難」です。
避難に関しては、自分が住んでいる街では「どこへ避難したらいいか」は分かると思います。しかし出先では、咄嗟に「津波避難場所」が分からないかもしれません。
海の近くや河口近くの街に出かける時は、出かける前、もしくは到着してからすぐに「津波避難マップ」などで、避難場所を確認するようにしましょう。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。