スポーツと生理の悩み 経験したからわかる「魂の診療」 女性アスリートの味方は世界3位のパワーリフター

2025年3月28日 08:04

フィギュアスケートやテニス、サッカーなど、今では様々な女性アスリートの活躍を見る機会が増えてきました。しかし同じアスリートでも、男性と女性ではクリアしなければならないハードルに違いがあるのをご存じでしょうか。

2024年 「世界マスターズクラシック パワーリフティング選手権大会」 女子47キロ級で銅メダルに輝いた医師の新藤和代さん

「女性アスリートは男性と違って、生理やホルモン変化などで、コンディションの調整がすごく難しいところがあります。大会当日のコンディションさえ良ければいいとか、そんな単純な問題ではなく、日々の練習からどう向き合っていくのか。その大切さをパワーリフティングを通して改めて実感しました」(新藤和代さん)

 こう話すのは、「名古屋東女性のクリニック」で院長を務める・新藤和代さん(45)。産婦人科医として働きながら、去年パワーリフティングの世界大会で銅メダルを獲得した現役のアスリート医師です。

 

パワーリフティングは「ベンチプレス」「スクワット」「デッドリフト」の合計重量で競う

パワーリフティングとは?

 パワーリフティングはバーベルを使った3種目の合計の重量を競います。

 ベンチに仰向けに横たわって押し上げる「ベンチプレス」、背中で担ぎながら行う「スクワット」、床から引き上げる「デッドリフト」。

 筋トレをしている人にはBIG3と言えばわかる人も多いのではないでしょうか。

 近年の筋トレブームの到来などにより、コロナが明けてからの数年で競技人口は伸び続けています。

 

新藤和代さん(左)とトレーナーの日高豪志さん(右) (名古屋市・中区 GET POWER FITNESSにて)

競技歴1年半で世界銅メダル

「始めた当初は一番軽い重量からスタートしたのですが、トレーナーの日高さんから指示された重量をこなしていくことが性に合っていたのもあって、記録がぐんぐん伸びていきました」(新藤さん)

 パワーリフティングの世界大会に出場経験のあるトレーナーの日高豪志さん(38)から練習方法から栄養管理まで教わり、そのおかげもあって競技を始めてわずか1年半で世界銅メダルにまで上り詰めました。

 そんな新藤さんの本業はあくまで産婦人科医。勤務時間が不規則な生活の中、アスリートとしても栄養管理や体重維持も欠かせません。

 実は、このような生活を始めたきっかけは近年産婦人科で関心が高まっている、ある問題に手を出そうとしたのがきっかけでした。

 

月経(生理)時の競技パフォーマンスの割合 (提供:「エムティーアイ」及び「アディダス ジャパン」

女性アスリートに寄り添うため自身もアスリートに

「産婦人科の中で、生理などに困る女性アスリート支援の関心が高まっているので、もともとそこに介入したいと思っていました」

「例えばがんになった医者はがんの患者の気持ちがわかるというように、女性アスリートの方の気持ちもスポーツを経験すればわかり、よりよい診療をすることができると思ったので、私もスポーツを始めようと思いました」(新藤さん)

 新藤さんはパワーリフティングを初めた同時期に、東京にある「世田谷女性のクリニック」で「女性アスリート外来」を立ち上げました。

 一般的に1年の内、約12週間を占めるという女性の生理期間。大会本番だけでなく、練習でも本来のパフォーマンスを発揮できず悩むケースも少なくありません。

 2023年に「エムティーアイ」及び「アディダス ジャパン」が生理管理アプリ「ルナルナ」を使用して行った調査で、スポーツ経験がある女性の内「月経(生理)前から月経中の不快な症状により、スポーツのどのような場面で影響が出たか」を聞くと「練習中の運動量、パフォーマンス」が57.1%、「試合中の運動量・パフォーマンス」が38.6%、「競技への意欲」が31.1%となりました。

 さらに「月経随伴症状の影響がない時期における、競技パフォーマンスを100%とした場合、月経随伴症状の影響がある時の競技のパフォーマンスが何%になるか」という問いには「50%」・「60%」・「70%」と答える人が多く見受けられました。

 

新藤さんのパワーリフティングの経験がより良い診療に繋がっている

パワーリフターとしての経験がプラスに

「特に体重管理をしなければいけないアスリートの場合、食事制限で生理が止まったり、ホルモンバランスが崩れたりするなどの影響もあるが、その場合の解決策として真っ先に挙げられるのは、食べて体重を戻すこと。だけど減量しなければいけないときもあるから、そうはいかない。そう言った悩みや苦しさは競技をしていないと絶対わからない」(新藤さん)

 パワーリフティングというスポーツ経験を通して、女性アスリートの悩みに共感ができるようになったという新藤さん。生理に悩む患者には、ホルモン剤の飲み薬を用いて生理周期のコントロールや生理を軽くする治療を行っていると言います。

 そんな新藤さんのことを知り、新藤さんのアスリート外来には様々なスポーツの分野から女性の悩みを抱える人が駆け付けます。

「プロ・アマ問わず陸上競技や水泳、サッカーやライフル射撃などの様々なスポーツをされる女性がいらっしゃいます。中には私と同じように世界大会に出る方もいるので、『その気持ちわかる!』と、対等な立場で接することができています」(新藤さん)

 

新藤さんは東京の「世田谷女性のクリニック」でアスリート外来の診察もしている

現役アスリート医師だからこそできる「魂の診療」

 もちろん、アスリートを診る医師の中には様々なスポーツ経験を持つ人が多くいますが、新藤さんがこだわるのは「現役女性アスリート医師による女性アスリート外来」。

「スポーツにかける想いは、今スポーツをやっていないと絶対にわからないと思うので、患者さんと一緒に年を取って並走していく。自分が今経験しているからこそ生まれる言葉で『魂の診療』をしていきたい」(新藤さん)

「若い世代の生理だけでなく、スポーツによっては更年期も女性アスリートの一つの課題だと思っているので、そういったところにも力を入れていきたいし、アスリートとしても医師としてもたくさん経験を積み、診療に活かしていきたい」(新藤さん)

 東京で新藤さんが診察を行う「世田谷女性のクリニック」の「女性アスリート外来」では、オンライン診療も行っています。

世田谷女性のクリニック 女性アスリート外来
https://setagaya-jc.com/woman/sports.html

(メ~テレ 杉野公祐)

 

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