切っても再生 ”プラナリア”が癒しグッズに 監修は基礎生物学研究所長、意外にリアルなできばえ

2024年10月13日 07:01
プラナリアをご存じですか。バラバラになっても元の姿に再生する驚きの能力がある生き物で、これをモチーフにしたクッションやポーチなどが登場しました。監修は、自然科学研究機構・基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の阿形清和所長(70)。昨年度の文化功労者に選ばれた専門家です。グッズは、かわいらしくもリアルな作りになっています。

プラナリアグッズに囲まれた基礎生物学研究所の阿形清和所長

 グッズは通販大手のフェリシモ(本社・神戸市)が8月に発売しました。
 動物や食べ物などをモチーフにした雑貨ブランド「YOU+MORE!」(ユーモア)の一つで、ラインナップには、東山動植物園の人気ゴリラ「シャバーニ」のクッションやブランケットもあります。
 

3つに“再生”するプラナリアポーチ(フェリシモ提供)

3つになるプラナリアポーチ
 プラナリアのポーチは、三つに切り離すことができます。それぞれから頭としっぽが生えて、3つのプラナリアポーチに「再生する」のがポイントです。プラナリアの生態を紹介するカードも添えられています。

 フェリシモのユーモアチーム企画担当の小倉志都香さんによると、「3つに分かれるポーチを作りたい」というアイデアと、教科書の片隅に紹介されていたプラナリアのイメージが合致したといいます。

 「まるで子どもの落書きみたいな、かわいらしい顔。実際は小さいけれど、なでたり抱いたりして遊べるようにしたい」と、クッションも作ることになり、製品のクオリティを上げようと、専門家の阿形所長に連絡を取ったといいます。
 

プラナリアのクッション(フェリシモ提供)

研究所長が全面協力
 阿形所長はかねてから「プラナリアのかわいさを広めたい」と願っていて、協力を快諾。今年2月に小倉さんたちが岡崎市の基礎生物学研究所を訪れ、切り離したプラナリアが再生する様子を見学し、生態について詳しく教えてもらいました。

 阿形所長からは、プラナリアの体は細かい毛(繊毛)に覆われ、毛の向きは再生しても変わらないこと、背中側と腹側の色が違うこと、両目の角度など、多くのアドバイスが寄せられました。

 小倉さんは生地の見本を持参し、阿形所長と一緒にどれが実物に一番近いか話し合いました。また驚きだったのは、プラナリアの口が頭部にないこと。腹から「咽頭(いんとう)」と呼ばれる管を伸ばしてエサを食べるとわかり、クッションの腹に丸いししゅうを入れて表現しました。

 「阿形所長はとてもエネルギッシュな方で、私もパワーをもらいました。所長の“プラナリア愛”や、共感してくれるお客さまの期待にできるだけ応えたいと思ってつくりました」
 

プラナリアの付箋(フェリシモ提供)

SNSで予想以上の反響
 グッズ発売後に「YOU+MORE!」のXアカウントで紹介したところ、「いいね」が8000超、リポストが4000超にのぼりました。

 小倉さんは「予想していた以上にプラナリアを知っている人が多くて、『自由研究にしたことがある』『家の水槽にどこからか入っていた』といった声をいただきました」といいます。

 ポーチのサイズは長さ17.5~25センチ、幅10センチで3410円(税込み)。クッションは長さ60センチ、幅16センチ、厚さ9センチ。右巻きになっているものや、頭が2つあるものもあり、1個3190円。付箋は頭が2つあるものなど7種類のセット計70枚で858円。「プラナリア観察日記」の台紙がついています。

 商品の詳細は「YOU+MORE!」のホームページ(https://www.felissimo.co.jp/youmore)から。

 プラナリアが再生する様子は、基礎生物学研究所がYouTube(https://www.youtube.com/watch?v=zwAlLlngHcU)で公開しています。
 

プラナリアグッズに囲まれて笑顔の阿形清和所長

阿形所長が語る“プラナリア愛”
 基礎生物学研究所の阿形清和所長に、プラナリアの研究やグッズの感想について聞きました。

ーーそもそもプラナリアとはどんな生物ですか。

 5ミリから3センチほどの大きさで、きれいな川などで光の当たらない石の裏などに棲んでいます。平べったい体をしているので、「プラナリア」という名前は「平べったい」を意味するラテン語に由来します。

 体は繊毛に覆われ、これを使って水中を滑るように移動します。墨汁の中を泳がせると、繊毛によって渦状の模様ができるので、和名としては「ウズムシ」と呼ばれています。人に害を及ぼすことはありません。

ーーグッズは、研究所で飼育しているプラナリアがモデルなんですね。

 1990年に岐阜県郡上市の入間川(いりまがわ)で採取された「ナミウズムシ」の1匹から、鶏のレバーをエサとして34年間にわたって増やし続けたプラナリアを研究に使っています。「岐阜」「入間川」の頭文字から「GIプラナリア」と名付けられました。

 GIプラナリアの特徴は、薄茶色の体です。目つきもかわいいし、咽頭の位置も申し分ありません。「ナミウズムシ」は「ナミ(並み)」というだけに日本中のあちこちにいますが、GIが一番かわいいと思います。

ーーそう言われると、寄り目な感じもかわいらしく見えます。

 目は平行に並んでいるのではなくて、前側が真ん中の方に18度くらい傾いています。その結果、右目の視野と左目の視野の重なる部分ができ、それで光の方向を認識することで、光から逃げることができるわけです。

 三角頭の両脇にある部分は「耳葉(じよう)」といって、エサの位置を感じ取るセンサーのような器官があり、それをひらひらさせながら動かすことでエサの位置を探ります。三角頭を動かす様子は、まるでディズニーのキャラのようにかわいいんです。
 

実物のGIプラナリア(基礎生物学研究所提供)

グッズに反映されたアドバイス
ーーグッズには阿形所長のアドバイスがたくさん反映されたそうですね。

 フェリシモさんにはたくさんのわがままを聞いてもらいました。繊毛が頭からしっぽに向かうようにうまく再現されていて、手触りが最高です。癒しの要素にサイエンスのエッセンスが加えられているところが大きな特徴です。

ーー右巻きのクッションは、首まくらとしても使えそうです。

 海外に出張する時に飛行機で使ったり、街中でもマフラー代わりにしてPRしようと思っています。

 こういう形は実際にあるんです。プラナリアを縦に2つに切ると、再生しようとしている方が小さいのでそちらに向かって丸まります。このクッションの形だと再生を始めて1週間ぐらいかな。この時はまっすぐ進めずにぐるぐると右に回っているのですが、2週間ぐらいすると完全に再生してまっすぐ進めるようになります。

 頭が2つあるクッションもありますが、縦に切るのを途中で止めるとこうなります。
 

基礎生物学研究所の実験室に置かれたプラナリアのクッション

人間の再生医療にもつながる可能性
ーープラナリアは、人間の再生医療にも役立つ可能性があるとか。

 私の研究は、プラナリアの再生の仕組みを細胞や遺伝子レベルで解明することです。
 山中伸弥さんがノーベル賞を受賞したiPS細胞は、どんどん分裂して増えてどんな臓器の細胞にもなれるので「多能性幹細胞」と呼ばれます。多くの生物では大人(成体)になると失われてしまうのですが、プラナリアは成体になっても全細胞の約20%が多能性幹細胞で構成されています。

 生き物の体はたくさんの細胞から成り立つ「細胞の社会」のようなものです。プラナリアの体にはGPSのように位置情報を持っている細胞がいて、自分が体のどこにいるのかわかっています。

 プラナリアは、位置情報システムを駆使することで切られた時にどこに何を再生すればいいかを幹細胞に指示して再生していることが、私たちの研究でわかりました。iPS細胞も、位置情報システムをコントロールすることでいろいろな臓器が作られる時代が来るかも知れません。

ーープラナリアグッズに寄せる期待は。

 基礎生物学研究所では、一般の皆様にも自然現象の謎を解くワクワク感を共有してもらいたいと思っています。「ニコニコ生放送」とコラボし、誰も結果を知らない初めての実験をライブ放送しています。プラナリアの実験シリーズでは、200時間も生中継してどんな結果になるかのワクワク感を共有したことで、100万を超えるアクセスを得ました。今回、サイエンスファンとは別の方々にも生き物の魅力を伝えられることがうれしく思っています。

 私にとってのサイエンスは、スポーツや音楽のように心が躍ってワクワクするものです。大谷翔平選手がMLBでチャレンジする姿に、みなさんワクワクしますよね。同じように、プラナリアもワクワクするものだと知ってほしい。チャーミングさは、大谷選手の愛犬デコピンにも負けないと思っていますよ(笑)。

(メ~テレ・山吉健太郎)
 
阿形清和さんプロフィール
 1954年大阪府生まれ、東京育ち。専門は発生生物学。京都大大学院理学研究科を卒業後、岡山大、京都大、学習院大の教授などを経て、2019年に基礎生物学研究所所長に就任。2023年度に文化功労者。著書に「切っても切ってもプラナリア」(岩波書店)など。趣味はサッカーで、少年チームのコーチ・監督も務めている。
 

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