スリランカ人女性が死亡した名古屋入管 第1号の常勤医師が語る“入管ドクター”の課題

2025年2月15日 10:01
名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で4年前、スリランカ人女性が適切な医療を受けられずに死亡しました。再発防止策の一つとして採用された常勤医師が、入管医療の意義と課題を、医学部の学生たちに伝えています。

名古屋入管の常勤医師になった間渕則文さん

 1月17日。名古屋市立大学の学生に向けて開かれた講義。教鞭をとったのは、医師の間渕則文さん(66)です。

 間渕さんの職場は、名古屋出入国在留管理局(通称・名古屋入管)。

 4年前、収容されていたウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が適切な医療を受けられず、死亡した場所です。

 再発防止策の1つが常勤医師の採用。間渕さんはその第1号です。

 間渕さんが診察するのは、名古屋入管に収容されている外国人。日本で暮らす資格を持たず、国外への退去を命じられた人たちなどです。診察中も警備官が立ち会います。
 

名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)

救命救急の現場から入管へ、心にしみた恩師の言葉
「入管の医療に関しては、言葉は悪いがブラックボックス。まったく情報に接する機会を持ち合わせていなかった」(間渕さん)

 間渕さんは、全国で初めて「乗用車型ドクターカー」を導入するなどした救命救急のエキスパート。60歳を過ぎ引退を考えていたころ、入管が医師を募集していることを知り、手を挙げました。

「スリランカの女性が亡くなった事案があって、みんな二の足を踏んでいるんだと。他の人がやりたがらない仕事で、社会的なニーズがあることを自分はやりたい」(間渕さん)

 入管の医師を引き受けた時、恩師の勝屋弘忠医師からかけられた言葉がありました。

「本国に帰らざるを得ない被収容者に、十分な医療を展開して人権を守ることは、日本が世界の国の中で確固たる地位を得ることになるから頑張れと言われた。非常に心にしみた」(間渕さん)
 

母校の名古屋市立大学で学生に講義する間渕さん

入管医療の意義・課題を母校の学生に伝える
 名古屋市立大学は間渕さんの母校。講義を行う講堂に入るのは卒業式以来です。

 名市大での講義は、入管医療の意義と課題を広く知ってもらおうと、間渕さんの強い意向で去年から始まりました。学生は医学部の1年生約100人です。

「入管の対象患者は、一般の病院の患者や刑務所の被収容者とは違っていて、理論上全員外国人です」(間渕さん)

 退去強制となり収容された人の健康を帰国の時まで守るのが仕事。しかし、日本で暮らす資格を持たない外国人だからこその悩みもあります。

「医療保険がないわけなので、医療にかかっていない。薬も飲んだことがないというような人が多いのも特徴で、時々びっくりする」(間渕さん)
 

全国の入管施設で常勤医師は定員を満たしていない

「圧倒的マンパワー不足」に強い危機感
 実は、国は全国6つの入管施設に間渕さんのような常勤医師を2人ずつ、計12人配置しようとしています。しかし現状は4人で、定員を満たしていません。

「イミグレーションメディシン(入管医療)というのに特化している医者は全国で4人しかいない。圧倒的なマンパワー不足で、専門の学会や研究会もない」(間渕さん)

 刑務所などを管轄する矯正局の医師は約280人。4人しかいない入管とは大きな差があります。

「日本の社会が成り立つためには、外国人の助けが必ず必要になってくる。入管としても適切な医療を展開するための科学的な議論の場や教育の場、いわゆる入管医療学としての基礎がまったく欠如していることに危機感がある」(間渕さん)

 間渕さんの講義を聞いた学生たちは…。

「(入管医師を)知らなかったし、人数も少なくてびっくりした。入管の中で困っている人はいるし、社会貢献という面で今までよりも興味がわいた」(医学部1年生)

「かなり人手不足で興味を持ったので、その道もありかと思った」(医学部1年生)

 間渕さんはこう語ります。

「入管の医療でこんなことが行われていて、こういうニーズがあって、問題点を抱えていて、特にマンパワー不足があってというのを少なくとも医療界に知ってもらって、国民の議論を高めていきたい」
 

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