子育てに悩んだ母親が、不登校だった我が子に送るドキュメンタリー「ふつうコンプレックス」とは 

2023年10月31日 18:29

双子の子育てに奮闘してきた母親が、息子の不登校に直面。「普通」にとらわれてきた自身の価値観を転換していった記録をドキュメンタリーにしました。 母親が我が子に残したい言葉とは。

台所で料理をする佐治秀晃さん

 通信制高校2年生の佐治秀晃さん、17歳。チャーハンを作るのが得意です。

 名古屋市内の地元の中学校で2年生の頃から不登校となり、卒業するまで続きました。秀晃さんは発達障害のひとつ、読み書きが困難な「発達性ディスレクシア」です。国語の先生からあだ名をつけてからかわれたことや、勉強のスピードについていけないことなどから不登校になりました。


 

不登校児童生徒数(文部科学省調べ)

不登校の児童生徒数は年々増加

 秀晃さんのように何らかの理由で不登校になってしまう児童生徒の数は、年々増え続け、2022年度は過去最多の約29万9000人にのぼっています。

 母親の佐治真紀さん(53)は、7年前に夫を病気でなくし不登校の秀晃さんと双子の妹、2人の子どもを必死に育ててきました。

 

「普通」にとらわれてきたと話す佐治真紀さん

「不登校はいけないもの、正すべき」から変化

「私も最初、不登校はいけないもの、正すべきものと思っていましたが、無理に合わないものに添わせなくてもよいのではないかという気持ちに変わっていきました」(佐治真紀さん)

 1人で子育てに悩んできた中で真紀さんは、これまで「普通」にとらわれたきた
自分の価値観の変化を、ドキュメンタリーにして我が子に残したいと考えるようになりました。

「今伝えたいけれどもしかしたら今は私の口からでは子どもたちには届かないかもしれないって思った時に、今ってそういえば映像の時代だなと思ってむしろ文章ではなくそういう映像で残すっていうこともありかなと思った」(佐治真紀さん)

 

ドキュメンタリー映画のチラシ

映画「わたしたちはふつうコンプレックス」が完成

 2年間かけて制作した真紀さんの記録は、60分のドキュメンタリー映画になりました。タイトルは「わたしたちはふつうコンプレックス」です。

 真紀さんは、この日、完成後初めての上映会を開きました。会場は、名古屋市千種区の「正法寺」、前住職には映画にも登場してもらいました。

 上映に必要な機材は、自ら調達しました。完成した映画をすでに見ている秀晃さんは、会場設営のサポートに入ります。

 上映会には、真紀さんの知り合いや、子どもの不登校に悩む親など約20人が参加しました。

 

映画に登場した尼僧

母親が記録したきた大人たちの「生きる」とは

 映画には、様々な仕事に携わる11人の大人たちが登場します。「生きる」とはどういうことか、「ふつう」とは何なのか?真紀さんの問いに答えていくドキュメンタリ―です。

「ごはん炊いて、味噌汁作って、食事ができるとその間は平和だと思う」(養蚕業)「木を切るのが楽しいから、仲間と出会うのが、それが楽しい」(間伐ボランティア)「その日その日が無事に事故なくけがなくやっていける日々の積み重ねが生きがいになってんじゃないの」(林業)「Time is Life、命だ、時間は命だと、たった一度の命をどう生きるか」(尼僧)

 

対話会で「ふつう」について語る参加者たち

「昭和の”普通”は結婚して子どもを持ち家を建てる」

 上映後は、グループになって対話の時間です。参加者は「ふつう」という言葉のとらえ方について、話しあいました。

「普通とカテゴライズされていることで混乱をまねいてる。そんなもの本当にあるのかみたいな感覚になりながら、教師をやめて今、仕事をしている」(参加した男性)「普通は何歳までに結婚して、普通は子どもをもって、普通はお家をたてるもんだ、みたいな、昭和の時代の価値観からアップデートされていない人もいる」(参加した女性)「私たち世代は古い普通や価値観を引きずっているなとすごく強く感じて。子どもたちが一番、犠牲者っていったら変だけど、今の学校教育の普通が本当に普通なのか」(親子で参加した女性)

 

今後の活動を語る佐治真紀さん

我が子に送るドキュメンタリー、息子の反応は

 真紀さんは、ドキュメンタリーを多くの人に見てほしいと願っています。

「心の中が平和でないと、社会を歪んでみてしまったり、正しく受け取ることが難しくなってしまうと思うので、まず、心の平和を取り戻して、次の一歩をふみだせるようなそういう、活動にしていきたい」(佐治真紀さん)

 我が子に送ったドキュメンタリー。社会に出て道に迷った時に見てほしいという
母親の思いについては。

「まあ、1回か2回はみてあげてもいいんじゃないって。
 とりあえず、20歳でいいんじゃない。あと、だから3年後か。
 まあ、見てもいいんじゃない」(佐治秀晃さん)

 

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