「これから対等な社会になって欲しい」旧優生保護法を巡る民事裁判 名古屋高裁で和解が成立

2024年11月15日 18:24

かつて、障害などを理由に不妊手術を強制された人々がいます。その背景にあった法律「旧優生保護法」を巡る民事裁判は、名古屋高裁で15日に和解が成立しました。各地で争われた一連の裁判では、最高裁が国の責任を認め、10月には救済に向けた法律が制定されましたが、被害者はいまだに大きな心の傷を抱えています。

大山勲さんと妻の智江さん

 愛知県豊明市に住む大山勲さん(84)と妻の智江さん(82)。2人は生まれつき耳が聞こえません。

「国に対して怒りがあるが、我慢して今日まで暮らしてきた」「子どもがいない2人の生活なので苦しい。困ったときに耳が聞こえる親族がいれば電話をかけてくれるなどできるけれど、そういうところは困っている」(大山勲さん)

 1967年に結婚し、2度、子どもを授かりましたが、親族の求めで中絶手術を受けさせられたといいます。

「妻は何も説明がなく、ただ病院に連れていかれた。勝手に病院に連れていかれ、手術を受けた。手術を受けた後に、何の手術か分かった」(大山勲さん)

 

旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた大山勲さん

「子どもが欲しかった」

 さらに周囲からの勧めなどを受け、大山さん自身も不妊手術を受けました。

「同じような手術は私たち夫婦だけではなく、他の夫婦も耳が聞こえない人は手術をしていた」「もちろん子どもが欲しかった。妻も子どもが欲しかった。子ども欲しかったよね? でもやめました。がっかりです」(大山勲さん)

 背景にあったのは、当時の「優生保護法」。「不良な子孫の出生防止」を目的に制定され、障害や遺伝性疾患がある人を対象に、本人の同意がなくても、強制的に不妊手術を行うことを認めたのです。

 厚生労働省によると、1996年に法律が改正されるまで全国で約2万5000件、愛知県では695件の手術が行われたとされています。

 

一審判決は「憲法違反」

名古屋地裁は「憲法違反」

「障害を理由に、子どもを作る権利を奪うことは憲法に違反している」

 旧優生保護法のもと不妊手術を強制された人々は、各地で訴訟を起こしました。

 名古屋では、聴覚に障害がある尾上一孝さんと妻の敬子さんが名古屋地裁に提訴。

 一審判決は「憲法違反」として、国に賠償を命じ、国側が控訴していました。

 

最高裁が「違憲」と判断し、国に賠償を命じる

最高裁が「違憲」と判断、総理が謝罪

 事態が大きく動いたのは、今年7月。旧優生保護法をめぐる他の上告審で最高裁が「違憲」と判断し、国に賠償を命じたのです。

「不妊手術という重大な被害を受けるに至ったこと、痛恨の極み。お一人お一人に深く深く謝罪申し上げます」(岸田前総理)

 最高裁判決を受けて、国は原告団と和解の合意書を締結。各地の裁判は、国が過去の政策の過ちを認める形で和解へと向かうことに。

 

名古屋高裁の和解勧告を国・原告双方が受け入れ、和解が成立

名古屋高裁の和解で、全国の一連の訴訟が終結

 そして名古屋でも15日、名古屋高裁の和解勧告に対し、国と原告の双方がこれを受け入れ、和解が成立。

 代理人弁護士によりますと、名古屋での和解をもって、全国で行われていた一連の訴訟が終結したということです。

 裁判後の会見で、原告の尾上夫妻は和解が決まった時の気持ちを聞かれると…。

「最高に感動しました。この和解、(地裁で勝訴した)3月12日からきょうの日まで最高の喜びを感じています」(尾上一孝さん)

 

「まだ喜べない」という大山勲さんと妻の智江さん

半世紀にわたる苦しみ、複雑な胸の内

 旧優生保護法を巡っては、10月8日に補償金の支給などを定めた法律が成立しました。

 しかし、半世紀以上にわたって苦しんできた豊明市の大山勲さんは、複雑な胸の内を明かします。

「半信半疑でまだ喜べない。本当の話なのかと。表面的には謝ってくれたが、実際はまだ信用できない」(大山勲さん)

 国に求めたいのは、一時的な救済措置だけでなく、差別のない社会づくりだと訴えます。

「コミュニケーションの壁がある。昔はすごく傷つけられた。昔に比べれば差別はだんだんなくなってきてはいるが、これから対等な社会になって欲しい」(大山勲さん)

 

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