「13歳までソフトクリームが食べられない」食物アレルギーのある娘の母が絵本を出版 全国を行脚

2024年12月7日 09:01

「絵本専門士」として活動する栗田洋子さん(61)(都内・11月)

牛乳を飲んで顔がパンパンに ピーナッツは触れただけで…

 「みんな大好きなソフトクリームを、娘には中学生になるまで食べさせられなかった」

 こう語るのは、絵本作家で絵本専門士の栗田洋子さん(61)。愛知県岡崎市で絵本の製作や読み聞かせをしている。

 栗田さんには娘がいて、ピーナッツや牛乳などの食物アレルギーがある。

 ピーナッツは、触れただけでアレルギー反応がでてしまう危険があり、小学1年の時には牛乳を飲んで、顔がパンパンに腫れてしまったという。

 当時の学校給食には、2日に1回はピーナッツが含まれるメニューが出ていた。カレーライスにもピーナッツの成分が入っていて油断できない。

 アレルギー反応が出るリスクが高く、栗田さんは学校と相談して、給食の時間になると3歳の息子を連れて、教室で娘の食事の見守りをした。牛乳の成分は1日20ccまでしか摂取できないと医者に言われていた。ソフトクリームでいえばスプーン1杯分くらいの量だ。同じ悩みを抱える人は周囲に全くいなかった。

 そんな中、2005年、栗田さんが42歳の時(娘は9歳)脳腫瘍を患った。このまま死んでしまう可能性もあると思った。

 「自分がいなくなったとき、娘がアナフィラキシーで後を追って来ないように、助けになるように」。2年かけて栗田さんは、自身がいなくなっても娘の安全を守るため、ピーナッツアレルギーのある人との向き合い方を絵本にした「ピーナッツアレルギーのさあちゃん」を出版。アレルギー反応のリスクや当事者とのかかわり方を物語に詰め込んだ。

 

食物アレルギーを題材にした栗田さんの絵本

全国を行脚…絵本の存在が知られていないと痛感

 「ピーナッツアレルギーのさあちゃん」の完成から1年ほどたった2008年、栗田さんはある学会でこの絵本の読み聞かせと、子育て経験を話す機会を得た。

 学会でアレルギーの専門医などに出会い、娘と同じようにアレルギーと向き合う人が全国にいると知った。また、同じ境遇の人と巡り合い、心が救われたという。

 その後も様々な場で本の紹介や読み聞かせを行うなかで、栗田さんは「アレルギー反応がどのように起こるのか」「当事者とどうかかわっていけばよいのか」知識を広めることで、少しでも当事者や家族の悩みを解消できるのではないかと考えた。

 実際に、47都道府県の行政機関、学校、図書館などを訪れ、本の寄贈を試みたが当初は取り合ってもらえる場所は多くなかった。移動や出版にかかる費用は膨らむ一方、絵本の存在が知られていないことを痛感したという。

 

活動は今年で18年目 栗田洋子さん(61)

娘が親の手から離れた今も

 それでも、栗田さんはあきらめなかった。活動は今年で18年目になる。娘は28歳。大学では栄養学を専攻した後、栄養士として病院に勤務。

 現在、海外で飲食業に従事しているという。治療に励み、今ではアレルギーがあるのはピーナッツのみだ。

 娘が親の手を離れた今も、栗田さんは全国を飛びまわり、学会やイベントで読み聞かせなどの活動を続けている。絵本製作の技術を高めるため、民間資格「絵本専門士」の資格を取得、今年6月には出版社が運営する絵本の専門学校を卒業するなど学ぶ姿勢に終わりはない。

 専門学校の卒業制作で手がけた絵本が「13さいではじめてたべたソフトクリーム」。牛乳アレルギーで、アイスクリームを中学1年生になるまで食べられなかった娘を題材にした作品だ。

 「ソフトクリームという多くの人が好むデザートを13歳になるまで食べられなかったという事実に対し、この絵本を読んだ人たちが自然と耳を傾けてくれるかもしれない、と思い作った」と栗田さんは語る。

 絵本の内容は、医師などの専門家に助言を求めるなどして、内容に問題がないか確認してから出版にこぎつけた。

 11月30日、「絵本専門士」約290人が参加するシンポジウムに栗田さんの姿があった。ブースを出展し絵本を広めた。今後も地元の愛知県岡崎市や名古屋など、さまざまな場所で活動をする予定だ。

 「食物アレルギーに関する医療や世の中の受け止めは日々変わってきている。食物アレルギーのある人が少しでも生きやすい社会を作るために、絵本と共に動き続けていきたい」栗田さんはそう語った。

(メ~テレ記者 内田悠雅)

 

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