9日判決 扶桑町母子3人殺害事件『娘に似ている人を目で追う自分が』娘を殺された母語る【記者の傍聴記】
2024年7月6日 22:11
2022年8月、愛知県扶桑町の自宅などで母子3人を殺した罪に問われる父親に9日、名古屋地裁で判決が言い渡される。被害者参加人制度を使い、法廷に立った遺族は『娘に似ている人をずっと目で追っている自分がいる』と涙を流しながら語った。
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田中被告の送検(愛知・犬山警察署 2022年)
争点は”責任能力の程度”
田中大介被告(44)。愛知県扶桑町で育ち、2009年10月に妻・智子さんと結婚。2012年12月に長女・千結(ちゆ)さん、2015年12月に長男・十楽(とら)さんが2人の間に生まれた。2016年には、扶桑町にマイホームを建て、4人で暮らしていた。
起訴状などによると、田中被告は、2022年8月9日、当時住んでいた扶桑町の自宅で妻・智子さん(当時42歳)の首を絞め、さらに、犬山市内に停めた車の中で、長女・千結さん(当時9歳)と長男・十楽さん(当時6歳)の首を絞めるなどして、殺害した罪に問われている。
6月25日に開かれた初公判で、裁判長に起訴内容について、「間違っているところはないか。」と聞かれ、「ありません。」とまっすぐに前を向きながら答えた田中被告。弁護側は、「妻の智子さんを殺害したときには妄想性障害にあり、心神耗弱状態にあった」として、責任能力を争う姿勢を示した。
一方の検察側は、「妄想性障害ではあったものの、犯行に与えた影響は限定的で、行為の善悪を判断する能力などは著しく損なわれていなかった」と指摘した。今回の公判では、公訴事実について争いがないため、「妻の智子さんを殺害した当時の田中被告の責任能力の程度」が主な争点となっている。
起訴状などによると、田中被告は、2022年8月9日、当時住んでいた扶桑町の自宅で妻・智子さん(当時42歳)の首を絞め、さらに、犬山市内に停めた車の中で、長女・千結さん(当時9歳)と長男・十楽さん(当時6歳)の首を絞めるなどして、殺害した罪に問われている。
6月25日に開かれた初公判で、裁判長に起訴内容について、「間違っているところはないか。」と聞かれ、「ありません。」とまっすぐに前を向きながら答えた田中被告。弁護側は、「妻の智子さんを殺害したときには妄想性障害にあり、心神耗弱状態にあった」として、責任能力を争う姿勢を示した。
一方の検察側は、「妄想性障害ではあったものの、犯行に与えた影響は限定的で、行為の善悪を判断する能力などは著しく損なわれていなかった」と指摘した。今回の公判では、公訴事実について争いがないため、「妻の智子さんを殺害した当時の田中被告の責任能力の程度」が主な争点となっている。
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当時田中被告が住んでいた自宅(愛知・扶桑町)
事件前の田中被告の夫婦仲
夫婦仲は悪かったのか。冒頭陳述や被告人質問では、事件が起きるまでの家族の話が多く語られた。
田中被告は、電気通信の工事の仕事を元請け会社から請け負っていた。休みは基本的に日曜日のみの週6日勤務で、朝5時半ごろに自宅を出発し、午後10時や11時に帰宅することが多く、そのままリビングで寝てしまうこともあったという。妻の智子さんは保育士の仕事も掛け持ちしながら、家族の世話をしていた。
田中被告は、1か月に1回ほど、智子さんと喧嘩することもあったというが、手を出すことはなかった。休みの日は、サッカーなどをして遊び、家族と時間を過ごしていたという。また、事件が発生した4日後、1泊2日で家族4人で京都旅行に行く予定だった。
証拠調べで提示された七五三の記念写真でも家族の仲睦まじい様子が印象的だった田中家。しかし、この後田中被告は、些細な事から妄想を膨らませるようになる。
田中被告は、電気通信の工事の仕事を元請け会社から請け負っていた。休みは基本的に日曜日のみの週6日勤務で、朝5時半ごろに自宅を出発し、午後10時や11時に帰宅することが多く、そのままリビングで寝てしまうこともあったという。妻の智子さんは保育士の仕事も掛け持ちしながら、家族の世話をしていた。
田中被告は、1か月に1回ほど、智子さんと喧嘩することもあったというが、手を出すことはなかった。休みの日は、サッカーなどをして遊び、家族と時間を過ごしていたという。また、事件が発生した4日後、1泊2日で家族4人で京都旅行に行く予定だった。
証拠調べで提示された七五三の記念写真でも家族の仲睦まじい様子が印象的だった田中家。しかし、この後田中被告は、些細な事から妄想を膨らませるようになる。
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田中被告がウイルスだと思ったスタンプ(取材に基づくイメージ)
田中被告の妄想「盗聴・盗撮をされているのかなー」
2022年7月以降、“智子さんがリビングの4つの電気を点けて寝るようになった”上、“パソコンの電源が点けっぱなしになっていることが多くなった”と感じた田中被告は、勝手に智子さんに“盗聴や盗撮をされているのではないか”と考えるようになった。その後、7月27日には「盗聴器発見器」を購入し、自身の車を調べたりした。
7月31日、家族とともに川に遊びに出かけた田中被告。帰宅後、頼んでもいないのに、智子さんからLINEで、遊んでいる時の写真が送られてきたそうだ。
(被告人質問より)
弁護側:写真を見て思ったことはありますか?
田中被告:「(写真を)長押ししたら、顔のスタンプ6つが出てきたのでウイルスを送り付けられたのかなと。」
弁護側:智子さんはなぜ?
田中被告:「智子は離婚しようとして、LINEなり、スマホなりを遠隔で操作できるようにして、不倫だの浮気だのの証拠を集めようとしているのかなと。」
弁護側:なぜ智子さんが離婚を考えていると思ったんですか?
田中被告:「智子が突然うちの親によく思われてないんじゃないかと言っていたので、僕からしたら仲良かったのでおかしいなと。あと6月より前は仕事しかしてなくて、飲みに行ったり、遊びに行っていたので、夫として不満だっただろうなと。」
また以上の話とは別に、田中被告には懸念していたことがあったと明らかになった。実は2022年5月以前、風俗に行っていたという。検察側の証拠調べによると、田中被告が「風俗通いが不貞行為に当たるか」などを検索していたという。
検察側:後ろめたさもあった?
田中被告:「僕は風俗はお店ですので、自分の中ではありかなと。智子がどう思うかが問題なので、多少はありました。」
7月31日、家族とともに川に遊びに出かけた田中被告。帰宅後、頼んでもいないのに、智子さんからLINEで、遊んでいる時の写真が送られてきたそうだ。
(被告人質問より)
弁護側:写真を見て思ったことはありますか?
田中被告:「(写真を)長押ししたら、顔のスタンプ6つが出てきたのでウイルスを送り付けられたのかなと。」
弁護側:智子さんはなぜ?
田中被告:「智子は離婚しようとして、LINEなり、スマホなりを遠隔で操作できるようにして、不倫だの浮気だのの証拠を集めようとしているのかなと。」
弁護側:なぜ智子さんが離婚を考えていると思ったんですか?
田中被告:「智子が突然うちの親によく思われてないんじゃないかと言っていたので、僕からしたら仲良かったのでおかしいなと。あと6月より前は仕事しかしてなくて、飲みに行ったり、遊びに行っていたので、夫として不満だっただろうなと。」
また以上の話とは別に、田中被告には懸念していたことがあったと明らかになった。実は2022年5月以前、風俗に行っていたという。検察側の証拠調べによると、田中被告が「風俗通いが不貞行為に当たるか」などを検索していたという。
検察側:後ろめたさもあった?
田中被告:「僕は風俗はお店ですので、自分の中ではありかなと。智子がどう思うかが問題なので、多少はありました。」
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田中被告が子ども2人と乗った車(愛知・犬山市)
事件当日・・・「祖父母と暮らすか、一緒に死ぬか」
事件当日の8月9日。妻より先に起きた田中被告は、自宅1階の様子などから、盗撮や盗聴されていると妄想し、起きてきた智子さんと、2階の子ども部屋で話をした。ここで初めて田中被告は智子さんに「盗聴器・盗撮機を仕掛けたことがあるか」と聞いた。智子さんは否定し、「あなたが仕掛けたんじゃないの。そんなことをする人は一緒に住めない、実家に帰ったら」などと返答したという。
そして、田中被告は智子さんの首を絞め、殺害した。
検察側は「事件直後の取り調べで『プツンとなって』と田中被告は話した」とし、智子さんに反論されたことで激高したなどと指摘した。一方、田中被告は、被告人質問で弁護側から「なぜ首を絞めたのか」と聞かれると、「全く覚えてないですね」と答えた。
智子さんを殺害すると、起きてきた2人の子どもを車に乗せて、コンビニで朝食やたばこを購入。犬山市にある入鹿池近くの駐車場に車を停め、田中被告は2人の子どもに「お父さんとお母さんは喧嘩して一緒には住めなくなった」と話した。しかし、長女の千結さんは「仲直りすればいいじゃん。千結も一緒に謝るから」と言ったという。田中被告は「お母さんを殺した。だからお父さんも死ぬから」と伝えると、子どもたちは泣いていたという。
検察側の冒頭陳述によると、田中被告は、今後は祖父母と暮らすことを提案しつつも、人殺しの子として生きるのはつらい思いをするから、一緒に死ぬように迫り、千結さんと十楽さんを殺害。田中被告自身も自殺を試みようとするが、死ぬことができず、事件の4日後、実家に連絡をし兄に迎えに来てもらい、警察署に出頭した。
また、同じく検察側の冒頭陳述・証拠調べによると、智子さんが盗撮や盗聴をしたり、浮気を疑って離婚を望んでいたりしたという事実はなかった。
そして、田中被告は智子さんの首を絞め、殺害した。
検察側は「事件直後の取り調べで『プツンとなって』と田中被告は話した」とし、智子さんに反論されたことで激高したなどと指摘した。一方、田中被告は、被告人質問で弁護側から「なぜ首を絞めたのか」と聞かれると、「全く覚えてないですね」と答えた。
智子さんを殺害すると、起きてきた2人の子どもを車に乗せて、コンビニで朝食やたばこを購入。犬山市にある入鹿池近くの駐車場に車を停め、田中被告は2人の子どもに「お父さんとお母さんは喧嘩して一緒には住めなくなった」と話した。しかし、長女の千結さんは「仲直りすればいいじゃん。千結も一緒に謝るから」と言ったという。田中被告は「お母さんを殺した。だからお父さんも死ぬから」と伝えると、子どもたちは泣いていたという。
検察側の冒頭陳述によると、田中被告は、今後は祖父母と暮らすことを提案しつつも、人殺しの子として生きるのはつらい思いをするから、一緒に死ぬように迫り、千結さんと十楽さんを殺害。田中被告自身も自殺を試みようとするが、死ぬことができず、事件の4日後、実家に連絡をし兄に迎えに来てもらい、警察署に出頭した。
また、同じく検察側の冒頭陳述・証拠調べによると、智子さんが盗撮や盗聴をしたり、浮気を疑って離婚を望んでいたりしたという事実はなかった。
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法廷内スケッチ(7月1日)
『娘に似ている人をずっと目で追っている自分がいる』娘を失った母の思い
7月1日の公判では、被害者参加人制度を活用し、智子さんの母と、弟が意見陳述をした。智子さんの母が終始涙を流しながら「悲しくつらい」という胸中を語った。
(智子さん母の意見陳述から一部抜粋)
七年前に主人を亡くし、智子さんと息子に支えられながら生きてました。しかし、突然娘の命を奪われてしまいました。殺される恐怖、あなたはわかっていない様子ですね。反省してください。月日が経つほど、忘れることはなく、娘に似ている人を見るとずっと目で追っている自分がいます。
被告人は孫達納得して亡くなった様に言ってますが、ひどいです。十楽くんは一年生になったばかりで、事件の約20日前、私の家に遊びに来た時、お友達たくさん出来たんだよと嬉しそうに話してくれました。ひらがなも上手に書くようになり、お手紙もくれました。千結ちゃんも運動会で一等賞になったよと嬉しい顔をしながら教えてくれました。殺したなんてむごい。つらく、悲しいです。
7月に実家へ来た時も智子は一言も離婚の話してません。被告人が帰りが遅くなり、何もないとき、温めて食べるカレーのパックを持たせた時、ありがとうと言って持って帰りました。被告人の悪口も言ってません。
8月15日は家族でお墓参りに来ること約束してたのですよ。お盆でみんなの元気な様子楽しみにしてたのに、考えるとつらいです。
(智子さん母の意見陳述から一部抜粋)
七年前に主人を亡くし、智子さんと息子に支えられながら生きてました。しかし、突然娘の命を奪われてしまいました。殺される恐怖、あなたはわかっていない様子ですね。反省してください。月日が経つほど、忘れることはなく、娘に似ている人を見るとずっと目で追っている自分がいます。
被告人は孫達納得して亡くなった様に言ってますが、ひどいです。十楽くんは一年生になったばかりで、事件の約20日前、私の家に遊びに来た時、お友達たくさん出来たんだよと嬉しそうに話してくれました。ひらがなも上手に書くようになり、お手紙もくれました。千結ちゃんも運動会で一等賞になったよと嬉しい顔をしながら教えてくれました。殺したなんてむごい。つらく、悲しいです。
7月に実家へ来た時も智子は一言も離婚の話してません。被告人が帰りが遅くなり、何もないとき、温めて食べるカレーのパックを持たせた時、ありがとうと言って持って帰りました。被告人の悪口も言ってません。
8月15日は家族でお墓参りに来ること約束してたのですよ。お盆でみんなの元気な様子楽しみにしてたのに、考えるとつらいです。
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論告・弁論時の法廷(7月1日)
判決は9日(火)に言い渡し
遺族の意見陳述後に行われた論告・弁論。
検察側は、
・智子さん命乞いをしたのに全く躊躇せず殺害するなど、残忍かつ冷酷な犯行
・犯行の直接の動機は妻から掛けられた田中被告に対する疑いの言葉であり、田中被告の妄想性障害が犯行に与えた影響は限定的。
・智子さん殺害時、自身の行為の善悪を判断する能力などが著しく損なわれた状態ではなく、完全責任能力があった。
として、懲役30年を求刑。
また、智子さんの母らの代理人は、
・智子さんの言葉に激高して起こした犯行で、身勝手で短絡的。酌量の余地はない。
・田中被告の責任が極めて重大であり、極刑はやむを得ない。
などとして、死刑を求めた。
一方の弁護側は、
・妄想性障害により、行動制御能力が減退し、智子さん殺害に及んでしまったという疑いを拭い去ることはできない。
・智子さん殺害時は心神耗弱状態であった
などとして、懲役25年が妥当であると主張した。
裁判長に最後に言いたいことがあるかと聞かれた田中被告。「智子さんの家族に頭を下げる機会をいただきたい」と機会を求めるも、断られていた。「これから毎日、智子の家族の心情を全部考えながら、智子・千結・十楽のことも考えながら、うちの母・親族のことも考えながら、生きていきます。母や智子の家族に支えてもらっていると思ってます。そのことに感謝しています。」と語った。
被告人質問で智子さん殺害時のことを聞かれると、「もう自分が全部悪いんです」と証言し、涙を流した田中被告。智子さんの母や弟の意見陳述を目をつぶり続けて聞いた田中被告は何を思ったのか。
判決は9日午後3時に、名古屋地裁で言い渡される。
(メ~テレ警察&司法担当記者 皆谷こころ)
検察側は、
・智子さん命乞いをしたのに全く躊躇せず殺害するなど、残忍かつ冷酷な犯行
・犯行の直接の動機は妻から掛けられた田中被告に対する疑いの言葉であり、田中被告の妄想性障害が犯行に与えた影響は限定的。
・智子さん殺害時、自身の行為の善悪を判断する能力などが著しく損なわれた状態ではなく、完全責任能力があった。
として、懲役30年を求刑。
また、智子さんの母らの代理人は、
・智子さんの言葉に激高して起こした犯行で、身勝手で短絡的。酌量の余地はない。
・田中被告の責任が極めて重大であり、極刑はやむを得ない。
などとして、死刑を求めた。
一方の弁護側は、
・妄想性障害により、行動制御能力が減退し、智子さん殺害に及んでしまったという疑いを拭い去ることはできない。
・智子さん殺害時は心神耗弱状態であった
などとして、懲役25年が妥当であると主張した。
裁判長に最後に言いたいことがあるかと聞かれた田中被告。「智子さんの家族に頭を下げる機会をいただきたい」と機会を求めるも、断られていた。「これから毎日、智子の家族の心情を全部考えながら、智子・千結・十楽のことも考えながら、うちの母・親族のことも考えながら、生きていきます。母や智子の家族に支えてもらっていると思ってます。そのことに感謝しています。」と語った。
被告人質問で智子さん殺害時のことを聞かれると、「もう自分が全部悪いんです」と証言し、涙を流した田中被告。智子さんの母や弟の意見陳述を目をつぶり続けて聞いた田中被告は何を思ったのか。
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