“金”じゃなく「銀のしゃちほこ」の危機 いぶし銀の輝き復活のため瓦の街が挑戦始めたクラファン 愛知

2024年12月23日 15:32
   

瓦製巨大シャチ 雄のソラちゃん(左)と雌のユメちゃん(右)  

 東海地方の名産物「三州瓦」。主に愛知県の高浜市・碧南市、半田市を中心に江戸時代から続く、日本の伝統産業の一つです。

 一般的な瓦に比べて製法や形状の種類が多いことと耐久性に優れていることが特徴で、住宅だけではなく、歌舞伎座や平安神宮などの歴史ある建造物の屋根にも使われています。

 今では粘土瓦の国内シェアの約7割、全国一の生産量を誇る三州瓦。その一大産地である高浜市には、市内のいたるところに「鬼師」と呼ばれる街の鬼瓦職人が作った瓦の粘土でできたモニュメントがあり、「やきもののまち」であることを象徴しています。

 そんな高浜市のシンボルとも言えるのが、「高浜市やきものの里かわら美術館」。瓦の歴史についての資料や、実際に江戸時代に作られた瓦などが展示されている“日本唯一”の瓦をテーマにした美術館なんです。

 「市民の皆さんに瓦を通して、街への想いを育んでいただきたいのと、市外の多くの方にも高浜市が誇る瓦の魅力を知っていただきたいとの願いを込め、1995年に開館しました」(高浜市役所 榊原雅彦さん)
 

かわら美術館の入口にそびえたつ瓦製巨大シャチ

目玉は銀色に輝く巨大シャチ
 来館者の中には重要な文化財を目当てに沖縄県から来る人や、外国人の方もいるという全国でも珍しい「瓦の美術館」。その美術館の目玉は、入口にそびえ立つ2匹の巨大なシャチ。

 美術館の開館と同時に街の鬼師たちによって作られた「瓦製巨大シャチ」です。

 名古屋城の金のしゃちほこをモデルにしており、三州瓦の特徴である“いぶし銀”から、別名「銀のしゃちほこ」とも呼ばれるこちらの作品の高さは約3.3m。金のしゃちほこより0.5mほど高いのだそう。

 自身の父が「瓦製巨大シャチ」の制作に関わったという、三州瓦工業協同組合理事長、山本英輔さん(49)に当時の制作状況について聞くと…。

 「当時は27人の鬼瓦職人が7カ月かけて制作しました。大きなシャチをいくつものパーツに分けて、それぞれ焼いた後に組み立てて一つにつなげています。瓦は焼くと体積が10%ほど小さくなるので、そこまで計算して焼くんです。これだけ大きなものをよく合わせたなと思いますね」(三州瓦工業協同組合理事長 山本英輔さん)

 鬼師24年目の山本さんからみても驚くほどの技術。市内にある瓦で出来た作品の中では、これほど手間をかけたものは他にはないそう。

 「27人集まると同じ三州瓦でも作り方がそれぞれ違って、それを統一するのが大変だったそうです。やはり皆職人気質なので『俺はこうやって作る』って感じで譲らなかったみたいで(笑)」(山本さん)
 

巨大シャチの口(左)や横の部分(右)にはヒビが

長い間頑張ってきた2匹は…
 2匹の巨大シャチはソラちゃん・ユメちゃんと名付けられて市民からも親しまれ、長い間1日も休まず美術館の来館者を見守ってきましたが…。

 「毎日外で展示されていたので、巨大シャチの尾の方は亀裂が入っています。金具などで固定はしているんですが、いつ落ちてきてもおかしくない危険な状態です。今度大きな台風や地震が来たら耐えられないと思う」(山本さん)

 2匹を実際に近くで見ると、表面にヒビが入っていたり、一部欠けている部分があったりと「長年頑張ってきた証」が数多く刻まれています。

 「基本的には瓦用の接着剤を傷などに塗り込むが、中には一から復元しなければならないパーツもある。小さなパーツでも復元するとなると40~50万円程かかるので、それを考えると完全な修復には300万円以上かかる」(山本さん)
 

高浜市やきものの里かわら美術館

“巨大シャチ”を後世に残すためにクラウドファンディング
 全国に誇る高浜市のシンボルを後世に残していきたい。山本さんが高浜市役所に相談したことがきっかけで市役所が立ち上げたのが、巨大シャチの修理費を募るクラウドファンディングでした。

 「来年は、美術館の開館と瓦製巨大シャチ設置からちょうど30年で、その節目の年に日本の、ものづくりの魂が宿る作品のことを全国の人たちに知ってもらい、多くの方の力を借りて修復をしていけたらと思い、クラウドファンディングを実施することになりました」 (高浜市役所 榊原さん)

 11月29日から始まったこのクラウドファンディングは、ふるさと納税と連携していて、寄付すれば税金の控除が受けられるだけでなく、高浜市外の方が寄付すれば瓦で出来た置物や地元の食材などの返礼品を受け取ることができます。
 
 さらに寄附した人の名前を瓦に刻み、巨大シャチの近くに飾ることも予定しているそう。

 「私自身、ピカピカの頃の瓦製巨大シャチを見たことがないので、クラウドファンディングを成功させてピカピカになった巨大シャチを見てみたいです」

 「瓦は高浜市のアイデンティティで、そのシンボルである作品『瓦製巨大シャチ』は、これからも高浜市を訪れる方を迎えていただき、子どもたちにも残していきたい大切なモノなので、さらにこの先30年、それ以上ずっと残っていくように修復してあげたいと思っています」((高浜市役所 榊原さん)
 

三州瓦工業協同組合理事長 山本英輔(49)さん

クラウドファンディングに託す鬼師の未来
 さらに、今回のクラウドファンディングには山本さんの“ある想い”も込められています。

 「後継者不足で鬼師の数が減ってきています。今は全国に70人くらい鬼師がいるが、平均年齢も52~53歳くらいなので、20年後には下手したら10人とかになっているかもしれない」(山本さん)

 全体的に瓦の需要が減ってきているというのも一つの問題ですが、もともと鬼師はテレビやイベント事に出ることを好まない人が多く、鬼瓦をはじめとした瓦の魅力を発信できなかったことも後継者不足の原因と考えている山本さん。

 「このクラウドファンディングで瓦製巨大シャチのことをたくさんの人に知ってもらって、少しでも鬼師という仕事に興味を持っていただけたらいいなと思います」(山本さん)

 クラウドファンディングは1月31日まで
 https://www.furusato-tax.jp/gcf/3645

(メ~テレ 杉野公祐)
 

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