看護の新しいカタチを全国に広めたい 「潜在看護師」が柔軟に働ける職場づくりに奮闘 愛知

2024年9月29日 05:01

超高齢化時代を迎え、看護師が介護・福祉施設など様々な場所で必要とされる中、個人のライフステージにあわせ柔軟に働ける新しい看護モデルを広めたいと奮闘する女性がいます。勤務していた総合病院を辞め事業をはじめたきっかけは、看護師として多忙を極めた末の出来事でした。

障害者施設で経管栄養をする中嶋美世子さん(46)

在宅で“看護” オンラインナースとは

 愛知県東浦町に住む、中嶋美世子さん(46)。今年1月、オンライン看護などを行う「ポケットナース」を立ち上げました。

 「ポケットナース」の活動は、大きく2つ。1つ目は、在宅でオンラインナースとして働くこと。健康相談をメインに、毎日薬を飲んでいるか、食事はとれているか、精神的に不安定になっていないかなど、日常生活を不安なく過ごせるようサポートします。

 2つ目が“つなぐこと”です。短時間でも看護を必要としている施設(老人保健施設・障害者施設など)と、日にちや時間でスポット的に集中して働きたい看護師とを繋ぎます。


 

障害者施設での検温の様子

仕事と家庭のバランスが崩れ…

 中嶋さんが「ポケットナース」を始めたきっかけは、自身がうつ病を発症したことにありました。
 
 専門学校を卒業し22歳から総合病院で看護師として働いてきた中嶋さん。30歳の時、勤め続けた病院で主任になりました。管理職となり仕事の責任が重くなったことと、母親として子育てが忙しい時期とが重なったと言います。

 最終的に緊張の糸が切れてしまった時のことを、中嶋さんは振り返ります。

 「実父の認知症もわかってきて先行きの不安もあった。新型コロナウイルスの蔓延で病院内が緊張感に包まれる毎日だったことが追い打ちをかけ、私の心も深刻な状態になって一旦休職したのですが、結局2021年7月に約20年勤務した病院を退職しました」

 一度は、看護師を辞める決意をした中嶋さんでしたが、体調が回復するにつれ再び看護への情熱が芽生え、このまま”潜在看護師”として終わるのはもったいない、自分の経験を生かし社会貢献したいと思うようになりました。

 

中嶋美世子さん(パソコンを使ったオンライン看護のイメージ)

看護師の離職率は…

 中嶋さんのように様々な事情から、看護に携わる人が離職してしまうケースは少なくありません。

 日本看護協会が公表した「2023年 病院看護実態調査」によりますと、2022年度の正規雇用看護職員(看護師・保健師・助産師・准看護師)の離職率は11.8%となっています。

 看護職員の離職率を都道府県別でみると、東京都(15.5%)や大阪府(14.3%)が高く、愛知県は12.7%でした。

 また、厚生労働省の「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況 」によりますと、看護職員の離職の理由は、30代・40代では「結婚」「妊娠・出産」「子育て」が、50代では「親族の健康・介護」が多く、20代は他の年代と比べて「自分の健康(精神的理由)」が多いといった特徴があり、ライフステージと密接に関連する傾向があることがわかっています。





 

「ポケットナース」のキャラクター(画像はいずれも中嶋さん提供)

「潜在看護師」をもう一度現場に

 「潜在看護師」に、もう一度現場復帰してもらえるような環境を作れないか。一つの病院で正規職員として長く勤めることのみではなく、ライフステージにあわせた柔軟な働き方であれば、精神的にも肉体的にも負担が軽くなるのではないかと、中嶋さんは考えています。

 さらに、中嶋さんによると、スポット的に働ける場面はたくさんあります。

 「例えば、老人保健施設など介護の現場では、夕方から夜の時間帯に、看護師の人手が必要になります。食事のあとの歯磨きやトイレ誘導、高齢者の方は夕方に情緒不安定になりやすかったり、就寝前に薬を飲んでもらったり、サポートの場面はたくさんあるんです」

 「雇用主と被雇用者という関係性ではなく、看護師が自立して個人事業主のようになっていくのが理想です。働き方を自分で自由に決められることで、長く看護師として活躍できるのではないかと思う。潜在看護師が柔軟に働ける新しい看護モデルを全国に広めていけたらと思っています」

 中嶋さんは今、「ポケットナース」を法人化するために、クラウドファンディングに挑戦しています。法人化して看護師のコミュニティを作ることで、看護師不足の新たな解決策を見出そうと奮闘しています。

 取材の終わりに、「ポケットナース」の事業名に込めた思いを聞いてみると…

 「看護師がいつでもポケットの中にいるような身近な存在であり続けたいという思いを込めてこの名前にしました。日本を支えてくれた、高齢者の方々への感謝の気持ちを形にしていきたいと思っています」(中嶋さん)

 「ポケットナース」クラウドファンディングは9月30日まで
  https://camp-fire.jp/projects/782972/view

 
 (メ~テレ 加藤歩)

 

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