「航空祭」の舞台裏 異機種を自在に操る“空の精鋭部隊” 航空自衛隊・岐阜基地
2024年11月19日 11:01
岐阜県各務原市にある航空自衛隊・岐阜基地。ここには、凄腕のパイロットたちが集まる特殊な部隊があります。彼らが魅せた人気の航空ショー。その舞台裏を取材しました。
全国で岐阜基地にしかない部隊「飛行開発実験団」
高く飛び上がったと思ったら…急降下。さらに、転回しながら上空へ。
自由自在に空を飛び回る機体を操縦するのは、岐阜県各務原市にある航空自衛隊・岐阜基地のパイロットです。
彼らが所属するのは全国で岐阜基地にしかない部隊「飛行開発実験団」。
飛行機やミサイルなどの装備品の試験を実施しているため、基地には航空自衛隊に配備されるほとんどの機種がそろっています。
そんな岐阜基地で年に一度行われるのが、空の祭典「航空祭」です。
自衛隊の活動を広く理解してもらおうと開催され、多くの人が訪れます。
1番の見どころは、戦闘機や輸送機など用途の異なる機体10機ほどが隊列を組んで飛行する「異機種大編隊」。
特に高い操縦技術が求められます。
岐阜基地 松尾浩史1尉
「大編隊」の肝となる隊形作り
その「大編隊」の肝となる隊形作りを、今年、任されたのが――。
岐阜市出身で、今年4月にテストパイロットになったばかりの松尾浩史1尉(34)。
「テストパイロット」とは、航空自衛隊で約1%しかいないパイロットのうち、他の基地で数年間勤務し、さらに岐阜基地で1年間の特別な訓練を積んだまさに精鋭部隊。
松尾さんにとっては、パイロットになって約10年で初めて迎える地元での航空祭です。
「航空祭によく来ていたり、父親に連れられて名古屋空港だとか、飛行機に比較的興味を持たせてもらえていたので、気付いたころには『パイロットになりたい』という気持ちが強かった。ずっと今まで見ていた航空祭で自分が飛べるというのは非常にうれしい」(岐阜基地・松尾1尉)
今年は、航空自衛隊が発足して70年。
「70周年にちなんだ隊形を作れないか今模索しています。向こうから航空機が進入してくるが、その時に数字の70が見えるような形でここにいる観客に70が見てもらえる隊形をイメージしています」(松尾1尉)
戦闘機F15に乗る松尾1尉
隊形で大空に“70”を描く
本番4日前の13日。初めて航空機10機が集まりました。
「自分たちが意図したものがお客さんに伝わらないと意味がないので、ちゃんとうまくできるかなというのを意識しながらやっている」(松尾1尉)
基地司令も見守る中、松尾さんは戦闘機F15に乗り込み、いざ出発。“70”をきれいに描くことはできるのか――。
観客に“70”がきれいに見えるよう意識
地上からの見え方を意識
隊列を崩すことなく上空を飛行します。しかし…
「1回目では若干、“7”と“0”の隊形がずれて見えたものの、きれいじゃなかったという反省点があった。なので2回やって2回目でそれがおおむね改善できたといったところ」(松尾1尉)
地上からの見え方を意識しながら、完成度を高めていきます。
高度な技術の一方で、危険と隣り合わせのパイロット。最優先にしているのは、常に安全への意識です。航空祭でも、通常の任務と変わらない緊張感で臨みます。
「管制官、他の航空機とのコミュニケーションをしっかりと取りなさいと指導を受けている。周りを見ていないと本当に一瞬で他の航空機と近づくことがあるので、しっかりと周りを見て飛行するということに気をつけております」(岐阜基地・石坂雄介3佐)
3児の父の松尾さん。普段なかなか見られないフライト姿が見られるのを、家族も楽しみにしています。
Q.航空祭は
「行きたい。赤と白の機体も飛ぶから楽しみ」(長男・圭悟くん)
「お父さんが飛んでいるところを見たりしているので、より飛行機に興味をもって好きになっていると思う。すごく子供たちも楽しみにしているので私も楽しみです」(妻・留奈さん)
戦闘機F15から降りる松尾1尉
出発直前の機体トラブル
17日、航空祭当日。パフォーマンスを見るため、基地には早朝から約6万5000人が訪れました。
松尾さんの子どもたちも笑顔で見送ります。
戦闘機F15に松尾さんが乗り込み、動きだしますが…すぐに停止してしまいました。
なんと、出発直前に機体トラブルが発生。急遽、練習機T4に乗り換え、飛ぶことに。突然の事態に松尾さんの家族も不安気に見守ります。
「テストパイロット」だからこそ臨機応変に対応
最大の見せ場、機体で描く“70”は――
機体の乗り換えがありながらも無事に離陸。
ダイヤモンド隊形やアクロバット飛行などのパフォーマンスが披露されました。
そしていよいよ、松尾さんが企画した最大の見せ場、機体で描く“70”。
“7”と“0”の距離が想定より少し離れてしまいましたが、大空に描くことができました。
「めっちゃかっこいい(パパは見えた?)見えたじっくり見えた」(長男・圭悟くん)
迫力のパフォーマンスに訪れた人は――。
「みんなスピードを合わせてぶつかりもせずに、きれいに飛べてすごい技術だなと思う」(滋賀県から)
「やはり実際に見た方が迫力があっていいですね」(神奈川県から)
機体が変更になったにも関わらず、無事やり遂げた松尾さん。日頃から様々な機体を扱う「テストパイロット」だからこそ、急な事態でも対応できました。
「色々点検していて、少し飛ぶには怪しいなと…。まさに部隊の特性をうまく生かすことができた。観客の皆さんがいっぱい来ていただいたので、私たちも非常にモチベーションが上がったのが正直なところです。そのモチベーションを今後の任務を成功させるための原動力にしていけたらと思う」(松尾1尉)