“公立王国”愛知で公立中高一貫校の初入試 伝統校・明和は競争率17倍の狭き門、校長・卒業生の期待

2025年1月13日 19:45

「公立王国」とも言われる愛知県で、東海3県では初となる公立中高一貫校4校の入試が11日、始まりました。伝統校・明和の倍率は実に17倍となっています。

明和高校付属中学校の試験会場(11日、名古屋市東区)

 愛知県立の中高一貫校は、明和・半田・刈谷・津島の4校で、今年4月に開校します。

 11日に1次試験の「適性検査」があり、名古屋市東区の明和高校では、付属中学の入学をめざす小学6年生の児童たちが緊張した様子で校門をくぐっていました。

 試験は複数の教科を組み合わせながら、知識・技能を活用した思考力・判断力・表現力などを計90分の試験で測ります。
 
 2次試験の「面接」を経て、合格者が決まる仕組みです。

 新年を迎えたばかりの1月3日。門松が飾られた名古屋の学習塾では、黙々と試験問題に向かう子どもたちの姿が。真剣な表情で冊子のページをめくり、マークシートの解答欄を塗りつぶします。

 行われていたのは「公立中高一貫校受検コース 正月特訓教室」。

 三が日にもかかわらず、約120人が約1週間後に迫った適性検査の対策講座に臨んでいました。

 

全国の公立中高一貫校の推移(朝日新聞調べ)

公立中高一貫校がなかったのは東海3県含む6県だけ

「最後の最後まで適性検査に向けて徹底的に学習をしていくということで、特にこの適性検査のマークシート式は子どもたちには初めての経験。実践的な経験をもっともっと積みたいと、正月にも学習しています」(名進研研究所 安井渉 所長)

 こちらの塾では、愛知県から中高一貫校導入の発表が出ると、多くの保護者から問い合わせがあったといいます。

 正月特訓を受講した子どもからも…。

「(志望校はどこの学校?)明和(付属)中学校です」
「(明和の中学校を志望した理由は?)探究学習ができる環境が整っていて、とてもいいなと思ったからです」(小学6年生)

「もともと愛知県は公立志向が強い地域で、いわゆるトップ校の1つに併設の中学校ができるとなり、子どもたちも『そういった学校でぜひ学んでみたい』と考える人が非常に多い」(安井所長)

 公立志向が強く、「公立王国」とも言われてきた愛知県。ところが私立高校の選択肢が増えたことなどを背景に、定員割れする学校も出ていました。

 そこで、愛知県教育委員会が新たな魅力づくりの方策の一つとして打ち出したのが「公立中高一貫校」なのです。

 朝日新聞によると、全国では公立中高一貫校は増加基調が続いています。2023年時点で、公立中高一貫校がないのは東海3県と富山、鳥取、島根の6県だけです。

 そうしたなか、開校する愛知県立の4校。

 子どもたちの興味や関心に応じたテーマを深く学ぶ「探究学習」に力を入れるなど、6年間を通じた特色ある教育を目指すといいます。

 

明和高校付属中学校の説明会(2024年8月、名古屋市内)

明和の説明会には約1300人申し込み

 注目度は高く、中でも去年8月に開かれた明和高校付属中学校の説明会には、約1300人から申し込みがありました。

 参加した保護者と児童からは…。
「(なぜ受験を?)中高一貫だから」
「(なぜ中高一貫で入りたい?)高校受験をしなくて済むから」(小学6年生)

「新設されるというところと、我々の世代だと明和高校ってブランドが高くていい学校というイメージがある」(参加した父親)

 

旧制・明倫中学校の卒業生にはトヨタ自動車創業者の豊田喜一郎氏も

明和は尾張藩校が起源の伝統校

 明和高校は、江戸時代の徳川御三家のひとつ、尾張徳川家が治めた尾張藩の藩校を起源の一つに持つ学校です。

 その流れをくむ旧制・明倫中学校の卒業生には、トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎氏らも名前を連ねます。

 戦後の1948年には、愛知県第一高等女学校と一緒になり、現在の明和高校が設立されました。

 自由な校風で知られ、スカートに黒いラインの入った女子生徒の制服は、長く学校のシンボルとして親しまれてきました。

 伝統校がどう変わるのか。学校の様子をのぞいてみると…。

 

明和高校の栗木晴久校長

校長「学びのプロセスを大事に」

「4月の開校に向けて、明和高校付属中学校では準備が進んでいます。教室には高校生のものよりも高さの低い机が並んでいます」(大橋葵記者)

 高校の敷地内に建てられた仮設校舎では、教室の準備が着々と進んでいました。

 そんな明和付属中学校の特徴は…。

「正解があらかじめ定まっていない問い・課題を追究するということ。成功しなきゃならないというプレッシャーも少ないし、失敗してもいい。学びのプロセス、チャレンジのプロセスを大事にしたい」(明和高校 栗木晴久校長)

 中学生を迎え入れる明和高校の栗木晴久校長は、併設型ならではの“高校生との交流”を積極的に行いたいとしています。

 一方、部活は行わず、2年間は仮設校舎での生活となります。それでも、定員80人を募集する普通コースでは、志願者が1364人に。倍率17倍と、狭き門になっています。

「1300人以上の児童が受けても、94%が不合格になってしまう、そういう意味では申し訳ない、すまないという気持ちはありますが、その分、お預かりするお子さんをしっかりと育てていきたい」(栗木校長)

 3年後の高校入試では、中学から進学する生徒らの分が募集定員から差し引かれることになります。

 

同窓会「明和会」の渡邉善一会長

卒業生「高校との相乗効果を期待」

 従来の学校の姿を大きく変えることになる付属中学校の開校。明和高校の卒業生の反応は…。

「いよいよプレハブの仮設校舎が建って、現実に中学生が入ってくるんだなと、同窓生の一人として感慨深く思っています」(同窓会「明和会」渡邉善一 会長)

 一部のOBからは、受験競争の過熱や、校風が変わってしまわないかを懸念する声もありますが…。

「中高一貫になったことでシナジー(相乗効果)が生まれるんじゃないかなという気持ちでいる。同窓会としてもワクワクしている。どんな学校になっていくかと期待している」(渡邉会長)

 さまざまな人の思いが交錯する、愛知の公立中高一貫校の入学試験。

 1次試験の通過者は、18日にある2次試験の面接に臨みます。

 合格発表は24日です。

 

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