目の前で倒れた人を助けられますか? 命を救う方法を市民に伝える「応急手当指導員」「応急手当普及員」

2024年10月19日 08:01

 心臓マッサージや人工呼吸、AED(自動体外式除細動器)といった心肺蘇生、いざという時にできますか?「応急手当指導員」「応急手当普及員」という資格を持ち、地域や職場で普及活動をしている人たちがいます。

胸骨圧迫を実演する「仲間をまもり隊」の大学生(左)

 「もし大切な人が事故や急病で呼吸が止まったら、救急隊が来るまでに心肺蘇生ができますか?誰かがやってくれると思っていたら、助からないかも知れません。大切な人を守る力を身につけてください」

 愛知県大府市の至学館大学で10月3日、「応急手当指導員」の学生8人が心肺蘇生法の講習会を開き、学生仲間たちにこう呼びかけました。「仲間をまもり隊」というオレンジのTシャツを着た8人は今年初めに地元の大府市消防本部で講習を受け、応急手当指導員に認定されました。

 

胸骨と心臓の位置(総務省消防庁のホームページから)

心臓マッサージの方法は

 講習会では、心肺蘇生の訓練用の人形を大府市消防本部から借り、参加した学生全員に体験してもらいました。

 「仲間をまもり隊」が説明した大人の心臓マッサージ(胸骨圧迫)の方法は――。

1.車が通る路上でないかなど、周囲の安全を確認する。
2.倒れた人の顔の近くで「大丈夫ですか」などと声をかけ、反応があるかを確認。
3.反応がなければ、近くの人を呼び止め、はっきりと「あなたは119番通報をしてください」「あなたはAEDを持ってきてください」「あなたは多くの人を呼んできてください」と依頼。
4.胸や腹が膨らむかなどをみて、正常な呼吸がないと判断したら、胸骨を圧迫する。
5.心臓があるのは、乳頭を結んだ線の真ん中ぐらいの胸骨の下。両手を重ねて手のつけ根を当て、肘を伸ばして真上からまっすぐ押す。
6.押し込む深さは約5センチで、単3乾電池の長さのイメージ。押す回数は1分間に100~120回の早いペースで。

 参加者は、予定より3倍多い約130人。高校や自動車学校で習ったことがある学生もいましたが、初めてだったという人も。石橋旭日さん(1年)は「手を置くところや押す深さを初めて知りました。人形なら胸を深く押し込めたけれど、実際の人だったらできるかな…。将来は学校の先生やスポーツのコーチになりたいので、とても役に立ちます」と話していました。

 「仲間をまもり隊」の近藤宏紀さん(4年)は、看護師の母から心肺蘇生の経験を聞いたことがあり、関心を持っていたといいます。「とにかく実践することが大事。やり方はウェブで学ぶこともできるけれど、人形に触って実際にやってもらいたい」

 同じメンバーの小川真凜さん(4年)は、小学生だった時に祖父が浴室で倒れ、父が救命処置をしたのを見た記憶があります。「救命方法を身につけたいと思っていたけれど、なかなか機会がありませんでした。応急手当指導員の講習は大変でしたが、近所には高齢者や子どもたちが多いので、いざという時にできる自信がつきました」といいます。

 

胸骨圧迫の方法を教える応急手当指導員の大学生(右奥)

「応急手当指導員」と「応急手当普及員」

 「応急手当指導員」は、全国各地の消防本部の消防長(消防本部がないところは市町村長)が認定します。

 大府市では、まず消防本部による3日間の講習で心肺蘇生や止血などの方法を座学と実技で身につけて「応急手当普及員」に認定され、さらに2日間の講習を重ねて「応急手当指導員」に認定します。

 大府市消防本部によると、市内の応急手当指導員は150人。このうち101人は消防職員で、49人が一般市民。至学館大学の学生のほか、介護施設職員や養護学校教諭などがいます。
 また、応急手当普及員は102人で、多くが会社員。応急手当普及員は職場や学校で、応急手当指導員には市内各地で広く講師役を務めてもらっています。毎年2~3月に普及員と指導員の講習を開いていて、市民はだれでも無料で受けられるそうです。
 
 隣の名古屋市では、応急手当指導員はほぼすべて消防局の職員です。一方、約4千人が応急手当普及員として、所属する会社や学校などで講習をしています。名古屋市消防局は、昭和区御器所通2丁目の昭和消防署がある建物に「応急手当研修センター」(052・853・0099)を設置し、市民向けに無料で講習会と出張講習をしているほか、各区の消防署でも無料で講習会を開いています。

 

応急手当指導員の学生が書いた心肺蘇生の手順

市民の応急手当で生存率が上がる

 総務省消防庁によると、2022年に全国で救急隊が搬送した心肺停止の人は14万2728人。このうち、救急隊が到着するまでに一般市民の応急手当を受けた人は7万3010人いて、1カ月後の生存者は5.9%の4303人でした。一般市民の応急手当を受けなかった人より1.3倍多い人数です。
 特に、心臓に原因がある心肺停止で、倒れた時が目撃された人に限ると、一般市民による応急手当を受けたのは約60%で、1カ月後の生存率は12.8%。受けられなかった人と比べ、救命効果は1.9倍高いといいます。

 消防庁は、全国の消防本部が応急手当指導員や普及員を認定するための要綱を定めています。2022年には全国で応急手当指導員の養成講習が計1086回開かれ、7434人が修了しました。至学館大学の学生たちについて「大学生が応急手当に関心を持ち、消防本部と協力して普及啓発に取り組んでいることはとても喜ばしい」といいます。

 消防庁は「一般市民向け応急手当WEB講習」(https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/)で、応急手当の方法を動画で学べるようにしています。また「応急手当は実際に練習することが大事」といい、応急手当指導員や普及員による対面の講習を受けることを勧めています。

(メ~テレ・山吉健太郎)

 

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