女子大が減っている 名古屋の伝統校も「男女共学」に 椙山女学園は“女子教育にこだわる”決意

2025年4月12日 08:01

女子大が、大きな分かれ道に立っています。名古屋市でこの春、長い伝統をもつ女子大が男女共学になり、名前も変わりました。共学化の理由は、少子化だけではないようです。一方で「女子大にこだわり続ける」という大学もあります。

男女共学の「名古屋葵大学」で記念撮影する男子新入生たち(名古屋市瑞穂区)

 「名女(めいじょ)」という愛称で親しまれた名古屋女子大学(名古屋市瑞穂区)が、この春、男女共学の「名古屋葵(あおい)大学」になりました。

 4月4日、初めての入学式がありました。

 

「新しい風を吹き込みたい」と話す新入生の武田京馬さん

「男子1期生」の感想は?

 新入生498人のうち、男子は63人。健康栄養学科や看護学科の男子は1割ほどですが、理学療法士を育成する理学療法学科は約4割が男子だといいます。

 理学療法学科の新入生、花木勇さん(18)は、高校時代に熱中したサッカーが進学のきっかけでした。
「ケガをして病院に通う機会が多く、理学療法士という仕事を知りました。高校の先生から共学になると聞き、オープンキャンパスでこの大学だなと。(女子大だったことについて)男子がかなり多いので気にならないです」

 看護学科の武田京馬さん(18)は、不安もあったと打ち明けます。
「正直、男子トイレあるかなとか…。いまは、長い歴史に新しい風を吹き込めたらと思っています」

 女子の新入生も、男子とのキャンパスライフに期待しています。
 児童教育学科の坂井陽日さん(18)は「男子がいることで新しい意見がたくさん出て、有意義になると思う。楽しみにしています」

 

学園創立者の越原春子と夫の和(やまと)を紹介する越原もゆる理事長

理事長に聞く共学化の経緯

 大学を運営する学校法人「越原学園」は、1915(大正4)年に創立された「名古屋女学校」が前身です。今年は創立110年の節目にあたります。

 新しい大学名は、創立の地の名古屋市東区葵町が由来です。

 創立者の越原春子(1885~1959)は、女性の社会進出に生涯をささげ、和服の着付けを簡便にする「名古屋帯」を考案したほか、女性の参政権が認められた戦後初めての女性衆議院議員の1人だったことでも知られています。愛知ゆかりの産業偉人を紹介する「あいち創業館」(名古屋市昭和区鶴舞)に、豊田佐吉や盛田昭夫らとともに展示されています。

 越原もゆる理事長に、共学化を決意した経緯を聞きました。越原理事長は、越原春子のひ孫にあたります。

Q:なぜ男女共学に?
「110年にわたって女性を社会に送り出してきましたが、男女共同参画が進み、性別に関係なく個性と能力を発揮し、社会で活躍することが望まれるようになりました。変化が激しく、多様性を認め合う社会では、性別に関係ない教育の方が有効なのではないかと考えるようになりました」

Q:越原春子さんが存命だったら、共学化についてどう言ったと思いますか。
「越原春子は先進的な考えをする人でした。名古屋帯を考案して身支度の時間を短縮したり、女学生の洋装化を進めました。『男性と女性は同等に学ぶべきだ』とも言っていて、もし存命だったら、もっと早く共学化していたのではないかと思います」

 これまで取り組んできた看護師や理学療法士、管理栄養士などの養成に加え、分野をまたいだ産学官の連携に力を入れていくため、学部・学科の再編を進めていくといいます。

 

桜花学園大で保育士を目指す梅木織斗さん(愛知県豊明市)

桜花学園大は共学化から2年目

 愛知県豊明市にある桜花学園大学は、同じキャンパスにある名古屋短期大学とともに2024年度から男女共学となり、この春、2年目を迎えました。

 桜花学園大学は、保育士の養成数で全国トップクラスの実績を誇ります。

 「保育士になりたい」という男子のニーズにこたえ、日本だけでなくオーストラリアの保育士資格も取れる「国際教養こども学科」を設けるなどして、受験者増をはかっています。

 保育士を目指す教育保育学科2年の梅木織斗さん(19)に聞きました。
「男子1期生とよく言われて、良くも悪くも目立ちますね。40人のグループで男子1人だけど、女子はみんな優しくて、困ったことを気軽に相談できます」

 桜花学園大学は、共学化とともに「学芸学部」を「国際学部国際学科」に衣替えしたところ、志願者数が2.6倍にアップしたということです。

 国際学科2年の山本貫太さん(19)は、姉も桜花学園の出身です。
「最初は女子ばかりのアウェーな感じですごく緊張しました。『男の子いるんだけど』と話す声も聞こえたりして…。でも先生が気を使ってくれて、今では女子の友達も増えました。男子が入ることで活性化するので、共学化はいいなと思います」

 

共学化で「いい変化が生まれている」と話す桜花学園大の笹生友広教授

大学「いい変化が生まれている」

 桜花学園大学で入試広報部長を務める笹生友広教授は、共学化に手ごたえを感じています。

Q:2年目を迎え、共学化をどう評価していますか。
「学生全体の約7%が男子です。思ったよりも多くの男子が来てくれていて、とてもうれしく思っています。保育系で知られているので、男子学生が来ると聞いた時は、近隣住民もびっくりしたみたいです。男子が加わったことで学内に華やぎが出て、学園祭の雰囲気も違ってきましたね」

「今年度は国際教養こども学科に初めて男子が入り、国際学部にも男子が多く入っています。2027年度にはソーシャルデータサイエンス学科(仮称)という理系色の強い学科も設立する予定です。共学化によって、大学内にいい変化が生まれていると感じています」

 

東海地方の4年制女子大の共学化

背景に少子化と進路の多様化

 大手予備校の河合塾によると、女子大の男女共学化は、全国的な傾向です。教育研究開発本部の近藤治・主席研究員に聞きました。

「東海地方では、1995年に愛知淑徳大学が共学になりました。これは全国的にも早い方です。2007年に東海女子大学が共学の『東海学院大学』に、2010年に中京女子大学が共学の『至学館大学』になっています」

「桜花学園大学や名古屋葵大学に続き、2026年度には愛知県岡崎市の岡崎女子大学と岡崎女子短期大学が、男女共学の『岡崎大学』『岡崎短期大学』になる予定です」

 全国に目を向けると、共学化によって大きく成長した大学があるといいます。

「東京の武蔵野女子大学が2003年に『武蔵野大学』となって共学化し、2005年に京都の京都橘女子大学が共学の『京都橘大学』になりました。これらの大学や愛知淑徳大学は、今では大規模な総合大学になっているといえます」

 

河合塾教育研究開発本部の近藤治・主席研究員

女子大はなくなってしまうのか

 近藤さんが共学化の要因に挙げるのは、やはり少子化です。

「少子化がどんどん進行し、女子大に限らず大学の志願者数は減少しています。中でも女子大は市場が全体の半分ですので、少子化のインパクトをより強く受けていることが挙げられます」

 もう一つの要因は…。

「職業のジェンダーレス化が進んでいます。女子は文学や生活科学・家政系の志望者が多かったのですが、理系を含め幅広い学部・学科で学びたいという志向が強まっています」
「そのような学部で学びたい時に、女子大には設置が少ないのです。例えば理工や経済を学びたい女子には、共学の大学が選択肢に入ってくるでしょう」

 このままでは、女子大はなくなってしまうのでしょうか?

「女子大はいま、学生募集という点では苦戦しています。しかし、女子だけで学べる環境を求める一定の層があります。女子の進路の多様化に合わせ、これまでと違った学びの場を提供すれば、女子大の志願者数の減少に歯止めがかかる可能性はあると思います」

「全国の女子大をみると、これまで設置があまり多くなかった社会科学系や理工系の学部をつくる動きが活発です。東海地方でも2026年度、金城学院大学が経営学部とデザイン工学部を設置する予定です。特にデザイン工学部は、東海地方の女子大では初めての工学部となりますので、注目しています」

 

「女子大をこれからも続ける」と話す椙山女学園大学の黒田由彦学長(名古屋市千種区)

椙山女学園大の学長に直撃

 女子大の共学化が相次ぐ中、名古屋を代表する名門女子大の一つ、椙山女学園大学は今後どうしていくのでしょうか。

 椙山女学園は1905年に開校した名古屋裁縫(さいほう)女学校が起源で、今年は創立120年の節目です。

 黒田由彦学長は「全国で女子大が逆風の中にいることは認識しています」と話します。

Q:共学化は考えていないのでしょうか?
「女子に高い教育機会を提供するということが、学校を作ったそもそもの理由です。120年間、女子教育にこだわり、時代に合わせて発展させてきた歴史がある。それをこれからも続けていく決意です」

Q:椙山女学園大学がこだわる「女子教育」とは?
「創立当初は、女性が家庭の中で家計を支える存在になることでした。それが時代の変化とともに、教養と専門性を身につけていくことになりました。1949年に椙山女学園大学ができましたが、専門性をもって自立した女性を育てることを一貫して追求しています」

 

椙山女学園大学で学ぶ学生たち

「女子大の良さ」とは

Q:「女子大の良さ」とは何でしょう?
「いまの日本社会は、法的には男女平等ですが、本当に平等かといえば、そうではない。いろいろな“見えない壁”がある。どちらかというと男性が前に出て、女性が従うという雰囲気が残っている。そういう壁にぶつかると忖度したり、身を引いてしまう。女子大は女性しかいないので、それはない。『私がやる』という能動性・主体性がおのずと身につきます」

「もう一つは、規模が大きくないことで少人数教育ができて、先生と学生、学生同士の距離が近いことです。それによってコミュニケーション能力が身につくことが女子大の良さだと思います」

「女子大とはいえ、男女からなる大きな社会の一部です。そこで教養と専門性、主体性を身につけられることは、共学では提供できない価値だと思います」

 

「星が丘ボウル」の跡地に建つ椙山女学園大の新施設のイメージ(提供:椙山女学園大)

椙山女学園「逆風を前向きに」

 黒田学長は、厳しい環境を前向きにとらえたいと言います。

「大事なのは、どうしたら学生に選んでもらえるか、どんな魅力のある教育を提供できるかです。椙山女学園は、どういう教育が受験生・保護者に選んでもらえるかを改めて考え直しました。少子化は、どこを伸ばして発展させるかを考えるいい機会だと、前向きに考えています」

 学長室の窓からは、2023年に営業を終えた「星が丘ボウル」の跡地が見えます。ここに、大学の新しい施設ができます。2024年に新設された情報社会学部の教室が入るほか、社会人が学び直す場をつくるといいます。

「星ケ丘がいま変わろうとしています。椙山女学園大学もパートナーとしてまちづくりに参加し、もっと社会に開いていこうとしています。シニアも30代・40代も『リスキリング』として星ケ丘で学び直し、また社会に出ていく。そういう機能を椙山女学園は大事にしていこうと考えています」

 

女子大ならではの良さを語る椙山女学園大の新入生

椙山の学生に聞く「女子大の良さ」

 椙山女学園大学の学生たちが考える女子大の良さとは何でしょうか。

「母の母校が椙山で、小さい時から学園祭に来ることが多かった。居心地の良さを小さいながら感じていて、志望は椙山1本と決めていました」(生活科学部の新入生)

「すっぴんで登校できる。おしゃれとかに気を遣わないでいいから、女子大でいいなって思います」(生活科学部の新入生)

「女子大の方がより素の自分でいられる。周りの目を気にしがちだったり、男子がいるからちょっと控えめでいようかなということはないと思います」(教育学部の2年生)

(メ~テレ 山吉健太郎)

 

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