自助の教え「津波てんでんこ」 普段から家族の間で避難のルールづくりが必要【暮らしの防災】
2025年3月23日 14:01
東日本大震災の時にクローズアップされたのは、岩手県釜石市で小中学生が一生懸命に避難して大津波から命を守ったことです。地震発生時に学校にいた児童・生徒は全員助かりました。いわゆる「釜石の奇跡」です。各校の子どもたちの頑張りは、主に「鵜住居小学校」と「釜石東中学校」での出来事を中心に報道されました。
釜石市では防災研究者・片田敏孝教授(現:東京大学大学院情報学環)の指導のもと津波防災教育が行われていて、「釜石の奇跡」はその賜物でした。その教育のベースになっているのは「津波てんでんこ」の精神です。子どもたちは津波が来たときに一人でも「てんでんこ」に避難できるよう学んでいました。

避難する「鵜住居小学校」と「釜石東中学校」の児童・生徒ら 高村幸男さん撮影(2011年3月11日)
地域の力 地元住民・消防団
「釜石の奇跡」では、子どもたちへの「防災教育」=「子どもたちの力」が注目されがちです。しかし、それだけではなくいくつもの努力・工夫の積み重ねによる成果でした。
これは「釜石の奇跡」を紹介するときに使われる写真です。中学生が小学生の手を引いて走っています。怖がる小学生を安心させようと、中学生が「歌をうたおう」と言って、歌をうたいながら走っていた児童もいました。
写真には大人も映っています。地元の人・教職員・保護者などです。意外と伝えられていないのですが、子どもたちの避難には、消防団や地元住民の手助け・声かけが貢献していました。「高い所に避難するように」「こっちだ!」と誘導したと言います。
この「地域の力」が重要でした。
<片田敏孝教授と釜石市>
三陸で防災の研究を行っていた片田教授は、共に防災教育に取り組むことを自治体に打診しました。そこで片田教授と釜石市の取り組みが始まりました。2004年のことでした。当時、釜石市は市民の防災意識の向上を考えていたそうです。
しっかりした防災教育を受けた子どもたちは、いずれ大人になり、社会に出て、家族を持ち、ひいては社会全体の底上げにつながります。学校の先生への啓発活動が行われ、そこで生まれた先生方との連携で、防災教育の教材開発と授業の研究・実践が始まったそうです。そして2011年3月11日を迎えます。
「片田教授、釜石市、市の教育関係者の出会いと、その努力の積み重ね」がなければ、避難の成功は実現しませんでした。
これは「釜石の奇跡」を紹介するときに使われる写真です。中学生が小学生の手を引いて走っています。怖がる小学生を安心させようと、中学生が「歌をうたおう」と言って、歌をうたいながら走っていた児童もいました。
写真には大人も映っています。地元の人・教職員・保護者などです。意外と伝えられていないのですが、子どもたちの避難には、消防団や地元住民の手助け・声かけが貢献していました。「高い所に避難するように」「こっちだ!」と誘導したと言います。
この「地域の力」が重要でした。
<片田敏孝教授と釜石市>
三陸で防災の研究を行っていた片田教授は、共に防災教育に取り組むことを自治体に打診しました。そこで片田教授と釜石市の取り組みが始まりました。2004年のことでした。当時、釜石市は市民の防災意識の向上を考えていたそうです。
しっかりした防災教育を受けた子どもたちは、いずれ大人になり、社会に出て、家族を持ち、ひいては社会全体の底上げにつながります。学校の先生への啓発活動が行われ、そこで生まれた先生方との連携で、防災教育の教材開発と授業の研究・実践が始まったそうです。そして2011年3月11日を迎えます。
「片田教授、釜石市、市の教育関係者の出会いと、その努力の積み重ね」がなければ、避難の成功は実現しませんでした。

高い場所に逃げる
津波てんでんこ
津波避難の標語「津波てんでんこ」。東日本大震災では、「津波から命を守るには揺れたらすぐに高台避難」の重要性が改めて認識され、そのキーワード「津波てんでんこ」が注目されました。釜石市の沿岸部では「命てんでんこ」とも言われています。
「てんでんこ」 とは、「それぞれに」「めいめいに」を意味する方言です。「命てんでんこ」は「自分の命は自分で守る」という「自助」の教えです。「津波てんでんこ」は、津波災害史研究家の山下文男さん(故人)が広めた言葉です。山下さんは岩手県大船渡市出身で、子供のころに昭和三陸大津波(1933年)を経験しています。
津波から身を守るには、いち早く、それぞれ、てんでんばらばらに高台に逃げる。山下さんは、ずっと訴え続けていました。この精神が釜石市での防災教育のベースになっています。
「てんでんこ」 とは、「それぞれに」「めいめいに」を意味する方言です。「命てんでんこ」は「自分の命は自分で守る」という「自助」の教えです。「津波てんでんこ」は、津波災害史研究家の山下文男さん(故人)が広めた言葉です。山下さんは岩手県大船渡市出身で、子供のころに昭和三陸大津波(1933年)を経験しています。
津波から身を守るには、いち早く、それぞれ、てんでんばらばらに高台に逃げる。山下さんは、ずっと訴え続けていました。この精神が釜石市での防災教育のベースになっています。

家族の間でルールづくりが必要
家族との信頼関係
海の近くにいて「大きな揺れ」を感じたら、すぐに高台・高い場所に逃げるということは、「家族に連絡を取らないで避難」と言うことです。誰でも家族のことは気になります。このため、子どもは家に帰ったり、保護者は子どもの学校に迎えに行ったり、探したりします。
それをせずに、それぞれが自分のいる場所から一番適切な避難場所に向かう。これは家族間で「みんなそれぞれ、きちんと避難している」という確信、信頼関係ができていないと実現できません。つまり、普段から家族の間で「大地震の時は、それぞれどこに逃げるのか」「その後、どのようにして連絡を取り合うのか」というルールづくりが必要です。
学校での防災教育で、家庭での話し合いが行われ、このようなルールづくりにつながります。このような家族・家庭への広がりも、まさに学校での防災教育の狙いでした。「釜石の奇跡」は、奇跡ではありませんでした。いくつもの地道な努力の積み重ねが導いた成果だったのです。
<課題>
「津波てんでんこ」「命てんでんこ」では、自分や家族の命を守ります。それだけではありません。走って避難する姿を見た周囲の人も避難します。もちろん、近くにいる人にも手を差しのべるはずです。
では、逃げ遅れそうな人、自力で避難できない要支援者をどうするか?この問題は、南海トラフ巨大地震を控えた私たちも考えなければいけない課題です。「個人レベル」ではなく、「地域」「社会」で、解決を図っていくテーマと考えます。
◇
被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。
それをせずに、それぞれが自分のいる場所から一番適切な避難場所に向かう。これは家族間で「みんなそれぞれ、きちんと避難している」という確信、信頼関係ができていないと実現できません。つまり、普段から家族の間で「大地震の時は、それぞれどこに逃げるのか」「その後、どのようにして連絡を取り合うのか」というルールづくりが必要です。
学校での防災教育で、家庭での話し合いが行われ、このようなルールづくりにつながります。このような家族・家庭への広がりも、まさに学校での防災教育の狙いでした。「釜石の奇跡」は、奇跡ではありませんでした。いくつもの地道な努力の積み重ねが導いた成果だったのです。
<課題>
「津波てんでんこ」「命てんでんこ」では、自分や家族の命を守ります。それだけではありません。走って避難する姿を見た周囲の人も避難します。もちろん、近くにいる人にも手を差しのべるはずです。
では、逃げ遅れそうな人、自力で避難できない要支援者をどうするか?この問題は、南海トラフ巨大地震を控えた私たちも考えなければいけない課題です。「個人レベル」ではなく、「地域」「社会」で、解決を図っていくテーマと考えます。
◇
被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。
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