「人間の力を超える自然災害」にどう対応するのか 30年経った今、消防署長が語る“教訓”
2025年1月18日 08:01
死者約6400人、負傷者約4万3700人に上る甚大な被害をもたらした阪神・淡路大震災の発生から17日で30年。今月13日には宮崎県沖の日向灘を震源とする震度5弱の地震が発生し、南海トラフ地震への関心も高まっています。大地震の発生に備え、私たちが自らの命を守るためにできることとは何か。30年前の阪神・淡路大震災で救助活動のため被災地へ赴いた、当時の消防隊員に話を聞きました。
名古屋市消防局・昭和消防署 塩内学署長
人間の力を超える自然災害
塩内学さん(60)。消防の現場一筋で、今年の3月末に定年を迎える、名古屋市消防局・昭和消防署長です。
阪神・淡路大震災が発生したのは午前5時46分のこと。塩内さんは地震が起きた日の午前11時45分に派遣部隊として出動しました。向かった先は被害の大きかった地域の一つ「兵庫県神戸市東灘区」です。
現場に近づくにつれ倒壊した家屋や交通渋滞が目立ち、思うように先に進めない状況だったといいます。東灘消防署に到着したのは午後9時7分で、出動から到着までに9時間以上を要しました。
家族が見守る中で亡くなった方の救出作業、布団にくるまれて亡くなっている母子。塩内さんが実際に現場で目の当たりにした状況です。塩内さんは、3回にわたり東灘区に派遣されましたが、1回目の派遣で携わった現場では、生存者が1人でした。
「通常の災害出動とは違う」「現場に行かないとわからない」。
人間の力を超える自然災害が生み出したいくつもの現場に、1つ1つ丁寧に対応することを心がけたと言います。
当時を思い出し、時折言葉を詰まらせながらも「命を守る大切さ」を語る塩内さん。重要な備えとして「家具の転倒防止対策」をあげました。
塩内署長が救助活動に入った現場の様子(提供:昭和消防署)
「倒壊した家だらけ」…病院や区役所にも被害
塩内さんが救助活動を行った地域では、木造家屋を中心に倒壊する被害が多かったといいます。区役所の途中の階が潰れていたほか、病院も被害にあっていました。
地震は多くの人が寝ている時間帯に発生したこともあり、救助に当たった現場は布団にくるまった人に家具や家屋の2階が落ちてきて1階部分を押しつぶしているという状況がほとんどでした。
救助活動を行う上で、家屋の倒壊や家具の転倒が妨げとなり、人が入り込めるわずかな隙間を探りながらの活動でした。家具の転倒がなければ、倒れる方向が違えば、倒壊した家屋に巻き込まれた人々が逃げ出せた可能性があると塩内さんは言います。
名古屋市消防局は、戸別訪問を続けていて「家具転倒防止対策」を呼びかけてきました。訪問時の聞き取りによると、昭和署管内の戸別訪問が行われた世帯のうち70%が、家具の固定や寝室の家具を無くす、配置を変えるなどの「家具転倒防止対策」を行っていたということです。
簡易型「感震ブレーカー」(名古屋市消防局が令和6年度の戸別訪問の際に希望者に配布)
電気火災を防ぐのに有効な「感震ブレーカー」
地震の影響で発生する火災をいかに防ぐかも重要です。
火災の発生要因には、料理などで火を使っていたり電気機器から出火したりすることなどが挙げられます。地震の影響で出火したとき、消火器や消火スプレーがあれば初期消火が可能になるため一つの備えとなります。
出火を防ぐ有効な手段の一つに「感震ブレーカー」もあげられます。
地震の揺れを感知すると、自動でブレーカーを落とす器具です。種類によって機能や価格が異なり、揺れを感知した後少し時間を置いてから電気を遮断するタイプもあります。真夜中の地震などで灯りがないと避難がしづらくなるため、懐中電灯を用意しておくなどの対策を取りましょう。
塩内さんは教訓の一つとして、自分が被災者にならないよう、「事前の備え」が大事だと改めて訴えます。南海トラフ地震が発生すると、広い範囲で被害が出て全ての現場に消防隊が対応できない状況になることも考えられます。
名古屋市の「感震ブレーカー」設置を呼びかける冊子の表紙
名古屋市では助成制度も
地震による電気火災を減らそうと、名古屋市は「感震ブレーカー」の設置費用を一部助成する制度を設けています。
名古屋市防災危機管理局によりますと、今年度に予定している助成の数はあわせて約740件ですが、1月15日時点で申請件数は約520件とまだ余裕があります。「感震ブレーカー」には、「分電盤タイプ」「簡易タイプ」など様々なタイプがあり、「分電盤タイプ」については、1月31日まで助成の申請期間となっています。
「分電盤タイプ」は電気工事が必要で費用がかかるため、普及が遅れている理由の一つにもなっていますが、この機会に助成制度を活用するのも良いでしょう。
名古屋市防災危機管理局の担当者は「過去の大きな震災で発生した火災のうち、半数以上が電気関係といわれています。それを防ぐことのできる感震ブレーカーの設置を検討し市の助成制度を活用してほしい」としています。
(感震ブレーカー設置助成受付窓口 TEL 052-483-7035)
名古屋市消防局・昭和消防署 塩内学署長
阪神淡路大震災を経験していない世代へ
消防の現場を卒業する、塩内さんの立場から今、伝えたいことは。
「南海トラフ地震では、広範囲で被害の発生が予想され、阪神・淡路大震災と同様に救急車はもちろん消防隊がすぐに駆け付ける事が困難な状況になることが予想されます。家具の転倒防止や地震による火災が発生しないように備えをしっかりとしてほしい。また、地域の人たちと災害時に安否確認がとれるようなコミュニケーションも大切にしてほしい」
(メ~テレ記者 橋本晴香)