「常識の革命始まる」“史上最多”初日に26の大統領令…トランプ氏“異例”就任式

2025年01月22日 14:09
ドナルド・トランプという人物は時代が求めた改革者なのか、それとも単なる破壊者なのか。世界がかたずをのんで見守るなか、2期目のトランプ政権がスタートしました。 就任式を終えたトランプ大統領は、有言実行とばかりにさっそく大統領令を連発しました。その多くの内容は、バイデン前政権の方針を完全に覆すものでした。 地球温暖化対策をめぐるパリ協定や、WHO(世界保健機関)からの脱退を表明し、国際協調よりもアメリカ第一主義を優先する姿勢を鮮明にしました。 4年のブランクを経て復活した異端児、トランプ大統領はアメリカ国内、そして日本を含む国際社会の双方に、就任早々から強烈なインパクトを与えています。 ■“異例”の就任式 支持者は歓喜 寒波のために連邦議会議事堂内に変更された就任式。世界3大富豪を始め、歴代の大統領、参列者は2000人を超えますが、直径約30メートルあるこの広間でも入れるのは800人程度です。残りの参列者は別のホールで見届けます。 そのころ主役は、バイデン大統領と同じ車に乗り込み、出発します。現職と次の大統領が一緒に車で就任式に向かうのが伝統的儀礼。ただ、4年前は選挙に負けたトランプ氏が現れず、長年の慣例が破られたので、ある意味、因縁の光景です。 そして、午前11時半過ぎ、トランプ氏は満足そうな表情とともに悠々と登場。近くのアリーナにはパブリックビューイングが設けられました。支持者2万人が見守るなか、就任式が進行していきます。 まずは40歳にして副大統領となるバンス氏が宣誓。次がトランプ氏の番です。 トランプ氏 「私、ドナルド・J・トランプは厳粛に誓います」 宣誓が終了した瞬間、トランプ氏は第47代合衆国大統領となりました。 ■「黄金時代 常識の革命始まる」 就任式はいよいよクライマックス、トランプ新大統領の就任演説が始まりました。 トランプ新大統領 「アメリカの黄金時代の幕開けだ。今日からアメリカは栄え、再び世界中から尊敬を集めるだろう。数カ月前、ペンシルべニアで暗殺犯の銃弾が私の耳を貫いたが、私は今より強く信じている。助かったのは偶然ではなく、アメリカを再び偉大にすべく神に救われたのだと」 神に救われた自分が率いるアメリカには輝かしい未来が待っていると強調したうえで、そのためには山積している課題を解決しなければいけないと力説していきます。 トランプ新大統領 「今日、私は歴史に残る大統領令に署名して、アメリカの完全復活と“常識の革命”に着手する。まず南部国境での国家非常事態を宣言する。これで不法な入国が直ちに止まり、大量の不法入国者を送り返す手続きを始める。『メキシコから出るな』政策を復活させて、不法移民のキャッチ&リリースを止める。さらに南部国境に軍を派遣して壊滅的な侵略を阻止する」 他にも環境保護政策の即時撤回、インフレを抑制するための非常事態宣言などを掲げたトランプ大統領。さらにこんな発言も…。 トランプ新大統領 「人種で区別しない実力主義の社会を築いていく。今日をもって政府が認める性別は『男性』『女性』の2つのみとする」 性的マイノリティーを全否定する発言が喝采を浴びるという異様な光景。これがアメリカの現状です。 大越健介キャスター 「厳粛なスピーチでしたけれども、いつものトランプ劇場でしたね。移民を追い出す、関税をかける。これまで繰り返してきたことを総ざらいして言った。その都度、同じ“ツボ”でトランプ支持者は盛り上がる。一方で、バイデン、ハリスの両氏は立ち上がって拍手することはほとんどない。これもまた分断の1つの見え方なのかなと思います」 この盛り上がりようもアメリカらしい一面ではあります。 市民 (Q.日本人から見て、トランプ氏はいつも同じ発言を繰り返している。いつも同じなのに、人々はなぜそんなに興奮するのか?) 「アメリカ人にとって政治はスポーツのようなもの。彼らはトランプを支持していることを見せたいんだ。彼の側に立っていることを示したい」 ■初日に26の大統領令“史上最多” 分断に拍車をかけるのがトランプ氏の存在です。就任演説を終えたトランプ大統領は、パブリックビューイングが行われた会場に足を運びます。この場で始めたことはまさに異例中の異例でした。 トランプ新大統領 「君が概要を発表してくれ」 大統領秘書官 「最初に署名するのは、バイデン政権時の大統領令78本を取り消す大統領令です」 兼ねてから公言していた“就任初日の大統領令乱発”。その1つ目を支持者の目の前で行いました。 トランプ新大統領 「バイデンに同じことができるわけがない」 ここで公約に掲げていたパリ協定からの再び脱退を含む、9つの大統領令にサインしました。 これで終わりかと思いきや、この後が本領発揮でした。大統領執務室で始めたのが、さらなる署名。デスクには大量のファイルが。大統領令だけでなく、トップダウンの指示なども含まれています。 議会を襲撃して訴追された約1500人の恩赦や、不法移民阻止のための国境への軍の派遣、メキシコ湾をアメリカ湾と呼称すること、TikTok禁止法の延期など、大統領令だけみると就任初日に26本。これは歴代大統領のなかで最多記録です。そこにはWHOからの脱退も含まれています。 ■メキシコとカナダ 関税25%? ただ、事前の予想よりも抑制したとみられる事案もあります。初日に発表されると言われていた、追加関税です。 トランプ新大統領 (Q.メキシコとカナダへの関税は) 「メキシコとカナダには25%の関税を検討している」 (Q.いつから関税をかける) 「2月1日だ」 中国に出されると言われていた60%の関税についても、この日の発表はありませんでした。 関税をちらつかせつつ、相手国に猶予と考える時間を与える。先の交渉を見据えたトランプ流のやり方です。 ■国境では入国できない移民も 異例尽くしとなったトランプ氏の就任初日。「この1日は独裁者になる」と言っていたことをしっかり実行したことは評価されていますが、それによる影響が出てくるのも早そうです。特に移民や国境警備に関する大統領令だけで、就任初日に4つ出されています。 その影響なのか、移民申請などで使うアプリが突然、使用できなくなったといいます。 ホンジュラスからの移民希望者 「アプリを使えなくするのは分かるが、すでに取得された予約はキャンセルされるべきではない。アメリカは唯一、安全を提供してくれる国なんです」 ■深刻な“対立と分断” 折しもこの日は、アメリカにとって重要な祝日でもあります。 大越健介キャスター 「今日は黒人の公民権運動に力を尽くした、キング牧師の生誕記念日。それが大統領就任式と重なって、トランプ大統領への反発の意味も込めてキング牧師の偉業をたたえようと、この教会に皆さん集まっている」 キング牧師が掲げたのは、全ての人がお互いを尊重する平等な社会という理念です。現在のアメリカの状況は…。 学生(21) (Q.トランプ大統領は国民を1つにできるか?) 「無理でしょう。彼は物議をかもすことが多く、そもそも『国民を1つに』とは思っていないのでは。街でも彼の言葉を広げる人たちがいる。彼は支持者には寄り添う姿勢を見せるが、支持者以外は彼と価値観が違うので国を1つにできない」 ■結束か分断か 国内の反応は ワシントンにいる大越健介キャスターに聞きます。 (Q.トランプ大統領は事前に宣言していた通り、複数の大統領令を出し、社会を変革して見せるという姿勢を示していた。ワシントンはどう受け止めていましたか?) 大越健介キャスター 「トランプ支持者は喝さいを持って迎え、反発する人は複雑な思いで沈黙する。それがワシントンの空気だったと思います。ただ、最大のアピールポイントだった不法移民の強制送還をまずは徹底して行うと表明したことに対しては、関係者も多いと思われる中南米出身の人たちが流石に動揺した様子でした。私たちはメキシコ料理店などで話を聞こうとしましたが、誰も取材に応じてくれませんでした。また、連邦議会襲撃事件で訴追された1500人の恩赦については、あまりに身勝手だとメディアに登場する多くの識者が嘆いていました。全世界に演じて見せたトランプ劇場は、あえてよく言えば『有言実行』、悪く言えば『趣味の良くないポピュリストの独壇場』というべきものでした。私は就任演説を、多くのトランプ支持者が集まるレストランで見たのですが、支持者たちはいつものテーマで盛り上がり、定番のジョークで喝さいを送るという、ある種の熱狂的な“ファンミーティング”に紛れ込んだかのような気持ちになりました」 (Q.明確な批判や反発はありませんでしたか?) 大越健介キャスター 「アメリカにとって4年に1度の大統領就任式ですし、特に首都ワシントンでは晴れやかなお祭り気分の方が勝っていた印象です。ただ、もちろんそれだけではありません。今回の大統領就任式の日は、ちょうど黒人の公民権運動に取り組んだキング牧師の生誕を祝う祝日と重なりました。私が訪ねた教会のイベントでは、差別の解消に生涯を捧げたキング牧師の功績をたたえながら、少数派への差別を助長するかのような振る舞いを繰り返すトランプ氏に対する批判的な空気に満ちていました。参加していた21歳の若者は『トランプ氏は物議をかもし、一部の国民を熱狂させることには熱心だが、アメリカ国民の結束には興味がない』と突き放したように話していました」

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