松任谷由実さん、被災地支援 写真展への思い 能登半島地震から1年
2025年01月17日 18:08
能登半島地震から1年、シンガーソングライターの松任谷由実さんが企画した写真展が現在、金沢市内で開かれている。大下容子アナウンサーが松任谷さんにその思いを聞いた。
■「第二の故郷」石川 被災地への思い語る
復興、道半ば。能登半島に暮らす人々の生活を壊滅的な状況に追い込んだ地震から1年。半島をぐるりと回る主要道路・国道249号が開通した。
だが、倒壊した家屋があの日のまま残されている地域もある。
そうしたなか、金沢市内のギャラリーで9日から始まった写真展。企画したのは、シンガーソングライター・松任谷由実さんだ。
写真家・佐藤健寿さんとタッグを組み、能登半島の現状を広く伝える、復興を呼びかけるための写真を展示している。
なぜ、ユーミンがこのような支援を行っているのか。
実は、彼女は石川県を「第二の故郷」と呼ぶほど、被災地と深い関わりがあった。
■2015年に観光ブランドプロデューサーに就任
大下アナ
「テレビ朝日の大下と申します」
松任谷さん
「松任谷と申します」
大下アナ
「もちろん存じ上げております。きょうは本当にお忙しいなか、ありがとうございます」
その松任谷さんが9日から、金沢市内で能登半島の現状を伝える写真展を行った。復興を目指す石川と彼女の関係について聞いた。
地震の一報を聞いてどう思ったのか?
松任谷さん
「まず信じられなかったですね。自分の感受性が強いこともあるのか、だんだん夜になってきて、叫び・嘆きそういうものをまるで傍受するように、その日は、翌日も…寝られなかったです」
大下アナ
「石川県との縁は?」
松任谷さん
「デビュー間もない時に、ラジオカーというのに乗って、金沢を中心に様々な所に生放送をしながら行ったりしました」
結婚前、荒井由実として活躍していたころのこと。自身は東京出身だが、石川県内のラジオ局の目にとまり、出演のオファーがあったという。中継車で県内各地を訪ね、地元の様子をリポーターとして伝えていた。
実は、松任谷さんにはこんな肩書がある。
大下アナ
「北陸新幹線が開業した2015年に石川県観光ブランドプロデューサーに就任」
松任谷さん
「ご縁だなというか、そこで何かするためにそういう役職をいただいたし、これだけ私も受け入れてもらっているので、見合う貢献をしないとなと」
■「異形の世界」にショック 写真展いつ企画?
地震後、石川県を訪れたのは、3月になってからだった。
大下アナ
「最初に光景を見た時は?」
松任谷さん
「ショックでした。人の力ではこんなにはならない異形の世界でした」
大下アナ
「被災した方と話をして印象に残ったことは?」
松任谷さん
「人気がないような変形した小道を歩いていたら、ふいに横から中年女性が現れて、私のことをすぐ分かってくれて『ああっ…』て。ハグしたんですけれど、頑張ってという言葉が陳腐に思えました。どんなに大変かというのを目の当たりにしました」
大下アナ
「写真展を企画しようと思ったのはいつごろ?」
松任谷さん
「内灘町に行って、帰りの新幹線で、これは何らかの形で残して、何かを伝えたいと思って。友人の佐藤健寿さんにすぐ新幹線の中から連絡しました」
■能登半島地震の被災地の今…写真一部を解説
彼が実際に被災地へと足を運び、カメラに収めた1万点以上の中から、厳選された写真が展示されている。
能登半島地震の被災地の今を伝える写真の一部をユーミン自身に解説してもらった。
松任谷さん
「もっと海岸線が遠かった。ここの島に近いくらいに。この鐘をたたいてから『わーっ』と波打ち際まで走って、ずいぶん行くんですけど」
大下アナ
「本当はもっと海岸線が遠かった?削られた?」
松任谷さん
「削られました」
大下アナ
「この鐘の先がすぐ海という感じではなかった?」
松任谷さん
「はい」
珠洲市にある見附島。その形から軍艦島と呼ばれる、能登のシンボルの一つだ。この写真は、周辺の海岸線に起きた地形の変化を捉えている。
松任谷さん
「能登半島はFの字という詩を書いた。FRIENDS・FURUSATO・FOREVER。でも、FRAGILE(=壊れやすい)だなと。すごく美しいから脆弱(ぜいじゃく)というのか」
同じく珠洲市内で撮られた1枚。道の両側には倒壊した家屋がある。
松任谷さん
「がれきではない…この土地の人にとっては。全部が思い出深いただのものではないものが積み重なっています」
真ん中にあるのは、隆起したマンホール。壊された日常をありのままに捉えた写真だ。
大下アナ
「生活がそこにあって…。自然の力…おそろしさ…」
松任谷さん
「人間はこんなことができない。ある種、神々しいものさえ感じてしまう。畏怖の念。日本人はそういうものを受け止める感性を持ってきた。天を恨むことができないから、どこかで心を一つにできる」
大下アナ
「9月に豪雨被害で仮設住宅がまた床上浸水したり…」
松任谷さん
「何で?と思って。これを必ず記録しておかなければとダメだと思い、また佐藤さんに連絡した」
9月に被災地を襲った豪雨。佐藤さんはまた能登へと足を運び、写真を撮り続けた。地震の爪痕が残された場所には、別の傷が…。
松任谷さん
「(佐藤氏と)『感情を入れてはいけないね』と話をしている。あくまでも冷静に。見る人の気持ちに委ねる写真展になったと思います」
■思いを込めた復興支援の曲「アカシア」
松任谷さんは去年5月、復興チャリティソング「アカシア」を発売。2001年に発表した曲を再リリースした。売り上げは被災地支援に充てられる。
松任谷さん
「今回はなじみのある石川県ですし能登ですし、何か自分でできないかなって思った時に、能登の歌があると思って。すべてそれにかけるわけではないんですけれど」
それは、初めて訪れた石川の海岸に咲いていたアカシアを歌った曲だった。
松任谷さん
「そのドライブの時に、県道の両脇にアカシアの群生があって、車の窓を開けると本当にいい香りがして、雨のように花が散っているんですよ」
大下アナ
「とても心温まるといいますか、松任谷さんの優しい歌声に涙が出そうな素晴らしい歌で。歌詞がですね、今聴くとすごくマッチする」
松任谷さん
「自分でもそう思って不思議でした」
大下アナ
「私たちも継続的な支援を考えなければいけないと感じるのですが、復興に向かうなかでの課題は、どんなふうに捉えていますか?」
松任谷さん
「とにかく忘れないことと思っています。それは能登のことだけじゃなくて、決して忘れないというところから、それぞれの持ち場でのベストが尽くせるのではないか。これからも各地で災害は起こると思う。『来るぞ、来るぞ』と思わずに『来ても大丈夫だ!』と」
■被災地で暮らす人の思い 曲作りの信念とは
写真とチャリティシングルに込められた能登への思い。写真展を訪れた人々の胸には何が…。
金沢在住の人
「ファンとしてはものすごくありがたいし、うれしく思います。私たちもちょっと頑張れるような気分になるので、能登の人にとってもものすごく心強いと思います」
金沢在住の人
「発信していただくことで、一般人が発信するよりも届く力も距離も違うと思うので」
写真展にはこんな人もいた。
輪島市で被災 母娘
「これです」
「これが7階建ての五島屋漆器店です」
「この辺で仕事をしていた。当日はいなかったけど、私はここで働いていた」
「まだ仮設に入っているんですけど。あと1年後、どうなるかもまだ分からない状態なんですけど」
先の見通せない今の世の中で、松任谷さんはアーティストとして何をどう表現していくのか。
大下アナ
「災害だったり、世界を見渡すと戦争だったり、そういう世の中の変化は、松任谷さんの音楽作りに何かしら影響を?」
松任谷さん
「必ず影響を受けていると思います。ただ元気で明るいというものは浮いてしまうし、芯のある力の湧くようなものにするには、自分の中にどんどん深く入っていくことだと思います」
大下アナ
「自分を掘り下げて中をのぞいてみる…」
松任谷さん
「見たくないものもたくさん見ます」
大下アナ
「フタをしているところがいっぱいあります」
松任谷さん
「アルバム制作などは必ずそうです。災害からも目を背けない、関係ない場所で起きていることをスルーしない機会が与えられて、とても良かったと思います」
■選ばれし者の使命「私は決して忘れません」
大下アナ
「その分、苦しいことも多いのでは?」
松任谷さん
「そうですね。でも、それが選ばれし者」
大下アナ
「皆さんの声を受け止めるのが使命、選ばれし者の。そして言葉・音楽・作品にして還元すると」
松任谷さん
「被災地の人はもちろん、全国の人に気持ちが届く、言葉にできないバイブレーションがきっと届くと思っています。それがミッションですね」
大下アナ
「石川の皆様に何かお伝えする言葉は?」
松任谷さん
「私は決して忘れません」
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年1月10日放送分より)
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