開発のきっかけは”小児まひ”の弟 車イスをけん引する装置「JINRIKI」災害時の避難をサポート

2024年8月23日 13:45
名古屋市内の百貨店で開催中の「防災フェア」。名鉄百貨店で9回目の開催となる今回、初めて「防災グッズ」を実際に使ってみたり、体験できたりする場が設けられています。車イスを「押す」のではなく「引っぱる」体験をしてみました。

「JINRIKI」を砂利の上で体験

 車イスをけん引するための装置「JINRIKI(じんりき)」。その名の通り、取っ手を車イスに固定し、人力車のように引っぱることができるものです。

 小さな段差や舗装されていない道路、傾斜がある道を走行する際、車輪の直径が小さな車イスの前輪が引っかかってしまい、走行を妨げることがあります。

 「JINRIKI」を取り付けることで、てこの原理で前輪を浮かせ、スムーズな走行を可能にします。

 必要な部品は3つ。約30秒で組み立て可能です。散歩や買い物など日常生活でも使用できるほか、災害が発生したときは、素早く安全な避難をサポートすることが期待されています。

 

階段でも使用(ウクライナ支援の際) 女性の後ろ:中村正善社長

車イスを「押す」側としての気づき
 「JINRIKI」を開発製造する会社の社長・中村正善さんには、小児まひで手足が不自由なため、車イスを使用していた4歳年下の弟、善八さんがいます。 

 公園を走り回る友達もいるなか、車イスの弟を押す中村さんは、幼いながらに「車イスは前輪が小さいからいけない」「車イスも前輪を持ち上げて大きなタイヤなら走れる」と気づきます。

 善八さんは中学生の時に他界。亡くなって以来、中村さんは車イスとの関わりがほとんどなくなっていましたが、モノづくりのプロではなかった中村さんが「JINRIKI」を生み出すことになったきっかけは、2011年に発生した「東日本大震災」でした。

 犠牲者は1万5000人を超えました。その中には「高台に逃げることもできたが、自力での避難が困難な家族や知人が近くにいたため(逃げることを)あきらめざるを得なかった人がいた」という現実を、中村さんは知ったといいます。

 中村さんが小学生の時に感じた「車イスも前輪を持ち上げて大きなタイヤなら走れる」という気づきは「商品化できれば人の命を助けられるかも」という発想につながりました。

 本格的に商品化を始め、特許取得には1年以上かかりました。こうして、あらゆるメーカー、サイズ、カスタマイズされた車イスに対応できる「JINRIKI」が誕生しました。
 

「JINRIKI」の3つのパーツ

「バリアフリー」から「バリアパス」へ
 建物や道路などを構造的に「バリアフリー」にするためには、設備投資など金銭面での負担も大きい場合があり「制限がある」と中村さんは話します。

 中村さんが提唱しているのは「”バリアフリー”から”バリアパス”へ」。バリアをなくせないのなら、車イスでも「JINRIKI」のような道具を使って乗り越えればよいと考えます。

 中村さんの理想は「JINRIKI」の原理が「すべての車イスに内蔵される」こと。「世界中の車イスメーカーがこの原理をくみこんだ車イスを作ってくれるのが理想」と話します。
 
 

名鉄百貨店「防災フェア」で展示されている「JINRIKI」

災害からマラソン大会まで…活用の場を広げる
 三重県熊野市では、地震・津波の発生に備え「JINRIKI」を無料で貸し出すなど、自治体での導入も進んでいます。

 さらに、学校の校外学習で体験したり、マラソン大会の救護者を安全に素早く搬送したりするために使用されていて、活用の幅は広がりを見せています。

◆「JINRIKI QUICK3」 60,280円(税込み)
 名鉄百貨店 本館8階ギフトサロンにて体験・購入可能
 8月30日~9月1日は、ナナちゃん前にて体験コーナーを展開
 8月21日~9月3日の「防災フェア」期間中はメンズ館1階特設コーナーでも展示

(メ~テレ記者 石塚莉子)
 

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